アフガン終わりなき戦場/第19回 先進国の匂いがする街で(上)
夜の帳が通りに下りる。街灯がある。車が走っている。男たちがランニングをし、若者がipodを片手に片手でリズムを刻みながら歩いている。
無機質な先進国の匂いがする。そう、あの少し漂白されて、直線が多い、チリが落ちていると掃除するのが当たり前な、そういう類の匂いだ。食用油と食べ残し、飲み残し、糞小便が道の真ん中に掘られた溝をテラテラ光ながら流れていく、そういう場所からはしてこない匂いだ。どうせみんな蓋をされて地下を流れているに決まっている。
宿舎のホテル・カリフォルニアからバス停まで徒歩1分。バスに飛び乗った。
隣に座ったヒスパニック系だろうか、バスのくすんだ蛍光灯で、油が顔で薄光りしている男が話しかけてきた。
「どこから来た? 日本人だろう」
そうだと答えた。
「はは!やっぱりね。俺の奥さんも日本人だから分かるんだよ。ほら、写真を見なって」
財布から出てきた写真には東洋系の美人と男が写っている。写真の下部には申し訳ない程度に子供が2人写っている。4人とも幸せそうに微笑んでいる。
「奥さん美人ですね」
そう言うと、男は照れくさそうに笑った。銃口を地面につけたM16も男の大柄な体につられて、カタカタと床を突っついた。
バスを降りると、左手にバーガーキングがあった。6ドル20セント。チーズバーガー・ミールを注文する。くしゃくしゃの1ドル札6枚と、紙のイーグル・コインで支払った。褐色の肌の店員が変わったアクセントの英語で言った。
「レタスとトマトを切らしてイルんだけど、構いまセンカ?」
構わないと言った。
ペプシがセットについてきた。ダイエット・ペプシはないのかと聞いた。
キンキンに冷えたダイエット・ペプシが業務用の冷蔵庫から出てきて、カウンターの上にぶっきらぼうに置かれた。
バーガーはアメリカン・サイズ。日本のバーガーキングより3割くらい大きく見えた。
ベンチに腰掛けてバーガーをかじった。ハンバーガーは「ここ」に来る前も随分食べた。ただ、「ここ」に来る前の場所ではチップスが入っていたり、ケチャップが一たらししか入っていなかったりした。レタスとトマトが入っていないけど、まあうまい。
土産物屋を覗くと、黒人の男が象の置物を買っていた。オリエンタルな作りだが、「ここ」で作られたものではないのは明らかだった。インドかタイの空港にありそうな、安っぽいつくりのやつだ。
わたしは何人もの人とすれ違いながら、妙な感覚に囚われていた。昨日までしていた匂いが無くなってしまったのだ。
バーガー・キングからホテル・カリフォルニアまでは歩いて戻った。ホテル・カリフォルニアは客室が3つ。今は相部屋を使っている。バンガローみたいな建物だ。
けれど、アメリカ人って言うのは妙なユーモアのセンスがある。ただの軍用の宿舎にこういう名前をつけるんだもの。
ホテル・カリフォルニアも「ここ」の匂いじゃない。クーラーから出てくる、機械的な冷気の匂いが立ち込めている。
もしかしたら、「ここ」からアメリカに来てしまったのかもしれない。
頭では自分がどこにいるか知っているが、身体がまるでついてきてない。もしかしたら、脳みそだけがここにあって、体はまだ「ここ」に置きっぱなしなのかもしれない。
僕はアフガニスタン最大の軍事基地、バグラム空軍基地にいた。(白川徹)
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