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2009年5月12日 (火)

草なぎ剛・公然わいせつ容疑逮捕の現場を歩く

 4月23日、SMAPの草なぎ剛さん逮捕のニュースで大騒ぎとなった。
 午前3時ごろ、六本木の東京ミッドタウンに隣接する檜町公園で、素っ裸で奇声をあげいたところを近隣住民から通報された。
Photo  現場に3人の警察官が到着したとき、彼は1人あぐらをかいて芝生に座っていたという。しかし「裸だったら何が悪い」と暴れ、公然わいせつ容疑で逮捕となった。裸なのは事実だし、保護シートにくるまれて搬送されたというから、かなり暴れたのだろう。しかし逮捕するほどの「事件」なのだろうか。まして家宅捜査にいたっては、薬物を疑ったとはいえ、そこまでするかという気がする。
 逮捕を受けて、レギュラーのテレビ番組は彼の出演シーンをカット。テレビCMも次々と放送を自粛した。いきなり穢れた存在となってしまった。

 しかし飲んで騒ぐなら、せめて1年半前までにしておけばよかったのにと思わざるを得ない。07年12月までは、通称「トラ箱」、正式名称・泥酔者保護所があったからだ。
 60年に鳥居坂保護所(港区)と日本堤(台東区)に開設。70年に三鷹(三鷹市)、52年に早稲田(新宿区)が設置された。76年の収容者は、なんと年間3万5109人だというからすごい。ところが、この年をピークにどんどん収容人数は減少。保護所も順次閉鎖され、最期に残った鳥居坂保護所の収容者が1日平均1.4人となり、先に書いた通り07年12月に閉鎖となった。
 この最後のトラ箱閉鎖を伝えた07年12月17日の『産経新聞』には、「花見や忘年会のシーズンは満員となることもあった。大暴れしていても、酔いがさめれば頭を下げて感謝して帰っていくのが日常の風景だった」という警視庁地域部関係者のコメントが載っている。
 つまり、そんなものだったのだ。

 もちろん保護室が全廃されたわけではない。地域の各警察署に保護室がもうけられているからだ。60年に局長通達で各警察署に保護室を設置するよう指示を出しており、警察庁広報部も「すべてとは言えないが、ほとんどの警察署には(保護室)が設置してある」と回答する。
 ただし、それほど活用されているわけではないらしい。09年5月2日の『毎日新聞』社説では、「留置場の容疑者らに迷惑がられるいせいか、“トラ箱”ほどには活用されていない」と書いてある。事の真偽を確かめるべく警察庁の広報に電話をすると、「そこまでは把握していない」と言いながら少なくとも否定はしなかった。
 泥酔者が嫌われるのは、一般車社会だけではないようだ。

Photo_2  草なぎさんが逮捕された檜町公園に足を運んでみた。元毛利家の下屋敷だった伝統を重んじたのだろうか、池を配した素晴らしい日本庭園と子どもも遊べる芝生が広がっていた。カップルや家族連れ、おしゃれなOLさんや外国人の親子が公園を散策している。彼が逮補された芝生の丘の上には、見上げるばかりのミッドタウンタワーが建つ。
 清潔で、高級で、安全で、誰からも非難されようもない、隙がないほどステキな空間。草なぎさん自身、このミッドタウンに住んでおり、トップアイドルだったわけだから、この住民としてふさわしい人間だったといえる。

 でも、それって幸福なのだろうか?

 自身、下戸でもあるし、酔っぱらいが好きなわけでもない。ただ息苦しさを感じてしまう。
 そもそも六本木自体、それほど美しい町ではない。2・26事件に関係した歩兵一連隊と三連隊の駐屯地が、敗戦とともに米軍に接収、兵舎が建てられた。その米軍相手の店が立ち並び始める。56年あたりから、やっと日本人相手の店ができ始めた。そこで遊び始めた若者たちが「六本木族」と呼ばれ、マスコミを賑わしたというから派手で危ない街だったのは間違いない。
 ミッドタウン自体、防衛庁の跡地である。少し繁華街から外れていることもあり、90年代には脇の道にはかなりの車が止まっていた。塀に囲まれた暗い敷地があったことにしか記憶がない。

Photo_3  逮捕現場から鳥居坂保護所にも行ってみた。ブラブラ歩いて25分。夜中に車で移動するなら、わずか数分だろう。アマンドのある六本木の交差点を越え、東京タワーに向かって歩く。ロアビルやドンキホーテを越え、首都高にぶつかったら右折。マンションにしか見えない建物だったが、看板は当時のままだった。最盛期の朝には酔いの覚めた人たちが続々と吐き出されたのだろう。

 現場を回っていて、法政大学で「法政の貧乏くささを守る会」を作った松本哉さんを思い出した。この会の説明で次のような文章がある。
「元々極めて貧乏くさかった法政大学でも、こぎれい化(=上智・青学化)が進行しており、このまま放置しておいたら極めて居心地が悪くなりそうだ! という事で、『法政の上智・青山化阻止!」をスローガンに決起し、法大当局の上智・青学化路線と全面対決しているのが、我々、法政の貧乏くささを守る会である」
 誰も反対できない美しさの中で、居心地が悪くなっていく。それって幸福なのかと、改めて感じた。(大畑)

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