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2009年5月17日 (日)

こんなところまで自己責任が……

 先日、吉祥寺にあるフランス製のシャツなどを扱う店で気になった光景を目撃した。どうも先日買った服を返品しにきたらしい客に、店員が何度も「お客様の責任ですから」とにこやかに繰り返していたのだ。見にくい値札を確認しなかったのも、サイズを確認しなかったのも、試着をしなかったのも「お客様の責任」らしい。たとえ袖を通してなくても返品には応じられない、と一歩も引かぬ構えだった。
 この論争が最終的にどうなったのかは分からない。しかし、ある程度の値段を取る衣料品店でも、店が客に自己責任を迫るのかと驚いた。もちろん法律的には店側が正しい。欠陥商品を売りつけたわけでもないのに、引き取る義務などない。ただ、20年前に同じようなセリフを店員が話し、納得できる人が何人いたのかと考えたとき時代のすう勢を感じた。

 朝日・読売・毎日の3大紙を「自己責任」で検索してみたところ、90年までは3紙で1年間に20~30件引っかかる程度だった。ところが91年、いきなり271件に跳ね上がる。朝日が89件、読売が92件、毎日が90件だから新聞によって違いがあったわけではない。調べてみると、「証券スキャンダル」が原因だった。証券会社が大企業や大きな団体に対して、株の損失を負担していた事件である。新聞は優遇された大企業などに対して、投資は「自己責任」原則であり、補填は企業のモラルハザードだと批判した。
 こうした記事で「自己責任」という単語が使われたのである。
 しかし「自己責任」という単語は、証券スキャンダルが収まったあとも紙面に登場し続けることになった。92年には164回、93年175回と少し落ち着いたものの、94年には253回と200代に戻り、95年には一気に429回、96年には656回、97年には673回、98年には804回、99年には848回と年々増加となった。
 この流れをつくったのは規制緩和であることは間違いない。93年に経済改革研究会がまとめた「規制緩和について」でも「自己責任原則を重視」と書かれている。このときすでに消費者保護のための規制を「必要最小限」だとうたっていることから、政府は個人への自己責任を強めようとしていたのだろう。しかしメディアの論調は必ずしもそうではなかった。
 初めて600代を記録した96年、「日本版ビックバン」といわれた金融制度改革などの規制緩和が大きな話題となっていたが、自由化で責任を取るのは銀行や証券、保険などの企業だと論じていた。大学設置基準の自由化なども話題の1つだったが、これも自由化で責任を取るのは大学という組織だった。これは「証券スキャンダル」で「自己責任」を迫られたのが企業だった91年の状況と同じだ。
 では、自己責任が個人にかぶせられてきたのは、いつぐらいからなのだろうか?
 今度は「自己責任」と「個人」という単語が両方使われている記事を3紙で検索してみた。すると95年が68件、96年が128件、97年が177件、98年が207件となり、99年に252件と過去最高を記録する。ここから徐々に件数は下がっていくので、99年に大きな山を迎えたといえる。
 その原因となったのはペイオフだった。ペイオフとは金融機関が破綻した場合に、預金を払い戻す処理方法のことを指す。一番問題になったのは、ペイオフが解禁されると1000万円以上の預金が破綻時に戻ってこないということだった。ここで自己責任は個人にも降りかかってくることだと、多くの日本人が認識することになった。そして5年後、日本人3人がイラクで人質となった際には「自己責任」論が燃え上がることとなる。
 じつは99年以降、個人の自己責任論はかなり浸透していた。2000年に自己責任に言及した記事には、豊作で米価低落に危機感を感じた農民やネットオークションでだまされた個人にも自己責任があると書かれていた。
 しかし、コレって暮らしにくくないだろうか?
 自己責任がすべて個人にかかってくるなら、間違いなくカネと権力と知識のある者が得をする。これは派遣社員を巡る悲惨な状況などを見れば、おのずと分かる。

 江口泰広・学習院女子大学教授は日経BPが掲載するインタビュー記事「リアルタイム・リテール」で、「セルフサービスとは、自分たちで顧客に商品やサービスを提供するのが本来の姿だが、コストを下げて安くしたいからできない。ならば店と顧客がコンセンサスを得た上で、手厚いサービスを提供できない代わりに、低価格で商品を提供しましょう──こういうことなんです。
 ここで重要なのは『顧客は素人だ』ということです。素人がセルフで商品を選んでいるのですから、『たまには間違いもあるでしょう。だから、その場合はいつでもお返し下さい』。こう言うのが、プロのプロたるゆとりだと私は思います」と述べている。
 
 これは商店だけの問題ではない。あらゆる「素人」にセーフティーネットを張れる余裕がほしい。弱小出版でそっと生活している私は、そう思わずにいられない。(大畑)

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コメント

自己責任を一番食らうのは、やっぱり我々素人のようですね。私もかつて、問題の派遣労働者をやっていました。晴れて正社員待遇の仕事を見つけて、退職届を出した。後は会社に任せておけば手続きをやってくれるものと、世の会社員の方々そう思いますでしょ?ところが、待てど暮らせど離職証明の書類が来ないし、手続きされているかどうかも分からない。新しい会社からどうなっているんですかと言われて、まともに答えられる人が何人いますか?離職手続きされていなければ、まだ派遣会社に籍を置いているわけだから(宙に浮いたなんとやら)、新しい会社が勝手に雇用手続きできません。素人だから分からないので、やむを得ず諦めた。行政に相談したら、派遣会社が悪いだった、法律違反もやっていたし。裁判に持ち込んだら、『新しい会社にかけあうなどして対処しない私が悪いのだから、賠償請求棄却』これも自己責任と判断された。ただし、裁判官は雇用保険法に素人で司法委員任せ。司法委員は素人の私を脅し、洗脳してねじ伏せた上での判決。行政の証言には蓋をした(被告や裁判官には臭いものだから)。丁度、裁判官訴追請求委員会に請求したところなんですよ。自己責任か否かを衆議院と参議院の選ばれた議員に判断してもらいますかね。おそらくは、今でも派遣会社は素人を騙し続けているであろう。どこまで被害が広がるのか。

投稿: さくらん | 2009年5月18日 (月) 13時03分

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