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2009年5月21日 (木)

編集者からの新刊案内/裁判員制度によって「冤罪」がより身近に~『司法殺人』(影書房)~

Photo176168_2 「波(は)崎(さき)事件」をご存知でしょうか? 1963年に茨城県で起きたこの「毒殺事件」は、日本の裁判史に「特筆大書」されるべきものだと本書『司法殺人』の著者・根本行雄氏は書きます。それは「自白もなく、物証もなく、目撃証人もいないけれども、『証拠は十分』であり、お前が犯人だと認定し、しかも、死刑の判決を下」すという特異なケースだからですが、「冤罪」という観点から見ると、これまでの他の冤罪事件が生み出されたメカニズムと多くの点を共有していることがわかります。
本書は、この「波崎事件」を中心に、過去の代表的な冤罪事件を取り上げながら、なぜ警察・検察・司法が冤罪を生み出すのか、その構造的な問題点を具体的に挙げていきます。
例えば、警察による見込み捜査&別件逮捕、代用監獄における取調べでの拷問、検察にとって不都合な証拠・証人隠し、証拠物の捏造や証人の買収等、「そこまでやるか!」と言いたくなるようなことが行なわれています。また三権分立しているはずの司法も、権力同士癒着しやすいために警察・検察の人権侵害に対して非常に鈍感で、被告人は有罪であるという仮説から出発するので、警察・検察の描いた筋書き通りの認定をしやすいと言われています。99.9%という異常に高い有罪率がこれを物語っています。
これらの例は決して戦前の話ではなく、戦後の実際の冤罪事件から検証されたことで、そして、いま現在でも行われていることです。
また、警察発表を鵜呑みにし、そのまま垂れ流す報道機関についても、「冤罪を生む構造」の一角を占める重要な問題のひとつとして検証されています。
さらに本書では、間もなく始まる予定の裁判員制についても取り上げています。裁判員制については既に多くの問題点が指摘されていますが、上記のような「冤罪を生む構造」が手つかずで残されていることも大問題です。何故ならこのままでは、裁判員となる市民が公正な判決を下すことは極めて困難だからです。例えば、証拠が捏造されていたら? 証人が買収されていたら? 「自白」が拷問によるものだったら? ……私たち「素人」同然の一市民である裁判員が、「その道のプロ」である警察官・検察官・裁判官の描く筋書き通りに、判決を誘導されてしまう危険は十分に考えられます。
また本書では、裁判員制と欧米における陪審制との違いについても、歴史的経過にふれながら解説されています。欧米の陪審制が「単なる裁判の制度」ではなく「近代憲法の基本思想である民主主義、人民主権と深く、強く結びついている」ことにも触れられており、「上から」の司法改革である日本の裁判員制との本質的な違いを、はっきりと知ることが出来ます。
裁判員制度の導入によって、誰もが冤罪の被害者にも加害者にもなりうる――背筋の寒くなる話ですが、本書は身近に迫った問題をつぶさに知ることのできる説得力ある一冊です。
1976年に最高裁で有罪が確定し「死刑囚」とされた「波崎事件」の被告・冨(とみ)山(やま)常(つね)喜(き)さんは、40年にわたり獄中から無罪を叫び続けました。二次にわたる再審の申し立てもなされましたが、いずれも棄却。2003年に病魔との闘いの末、十分な医療も受けられないまま東京拘置所で無念の獄死をとげられました。享年86。現在、「死後再審」開始のための準備がすすめられています。

根本行雄著『司法殺人――「波崎事件」と冤罪を生む構造』
四六判上製240頁 定価2,000円+税
ISBN978-4-87714-388-6 ★高校生から

【参考】以下のサイトに、著者による「自著を語る」が掲載されています。
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200903011401070

(影書房・編集担当 松浦弘幸)

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コメント

私の簡易裁判も、半田亜希子さんが体験した裁判(講談社、裁判官は宇宙人参照)だけじゃなく、裁判員が参加するような重要事件でも、証拠の捏造や証人の買収って、やっぱりあるんですね。一番恐ろしいのは、被告弁護士による洗脳じゃないでしょうか。被害者の遺族もさぞ心配なのでは。ぶっちゃけ、山口県光市の母子殺害事件の被告弁護士がやっていることは当てはまっていると思います。私ら素人を洗脳するつもりか。恐ろしい!

投稿: さくらん | 2009年5月21日 (木) 11時36分

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