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2009年5月 2日 (土)

アフガン終わりなき戦場/第17回 アメリカナイズとの闘い(下)

「ふーん。俺はムトワキルの言っていることは、今のアフガンの状況そのものだと思う。間違っちゃいないよ」
 酔いの回ってきたワリッドは、私のライターをいじりながら言った。
「でも、何か引っかかる?」
「俺はタリバンの支配する社会なんてごめんだってことさ。タリバンじゃなくても、アフガニスタン自体ノー・サンキューだよ。だから、さっさとアメリカにおさらばするさ」
「ふむ」
 ワリッドはアフガン人としては宗教色が皆無の人間と言ってもいい。宗教にも戦争にも興味は薄い。他のアフガン・エリートと同様に少しでもいい生活を求めて、チャンスがあればアフガニスタンを離れようとする。
 私が雇ってきた通訳も彼を除外して3人がすでに外国暮らしだ。悪いことだとは言わない。より良い生活を求めることは当然だ。けれど、彼らのようにアフガニスタンを出ることができるのは限られた一握りのエリートだけだ。99.9%のアフガニスタン人は、素朴にイスラム教を信じ、ひたすら乾いた大地に作物の種を植えるような人たちだ。

 私は少し話し疲れて、パソコンのiTunesでビートルズの「ガール」をかけた。メランコリックで、内省的な曲だ。プレイリストではその後に「ミッシェル」「ノルウェーの森」「エリナ・リグビー」が続くことになっている。
「辛気臭い曲だな。もっと明るい曲はないのか?」
「ビートルズは聞かないのか?」
「ビートルズなんて男、名前も聞いたこともねえよ」
 わたしは日本で友人のくれたアメリカン・ポップの曲をかけた。再生回数は「0」だ。
「これだよ。これ」
 私にはワリッドがアメリカ人よりもアメリカ人的に見えた。
 Pretending like an American
 今時のアフガン・エリートにはよくあることだ。
 私はムトワキル氏と普通のアフガン人について考える。ああ、きっとあの人たちはこういうのが嫌いなんだ。観念的にそう思う。
 ムトワキル氏はタリバン攻撃の目的を「独立」と「自由」のため、と強調した。世界は多かれ少なかれ、アメリカナイズされていく傾向にある。大量消費と、メディアの流行操作。そして、それを操る大資本。酒に酔ったときのように、頭痛はあるが、それでも快楽は得られる。
 タリバンとは、そういう世界のアメリカナイズに対する抵抗運動ではないだろうか。精錬で、直情的。そしてシンプル。そう、アフガン人の好きな黒茶や緑茶みたいに。
 どちらにしても、アメリカ軍兵士やタリバン戦士の間に流れるのは血だ。ビートルズの「ガール」ではありえない。
 酔って濁った眼を外に向けると、山間に無数の蝋燭の火のように光る、家々の光が見えた。今日は電気が来る日なのだ。はっとするほど美しい。
 ムスタファ・ホテルの屋上に出ると、電気が来て街に光がともった分、星を見ることができなかった。(白川徹)
 
 

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