« ロシアの横暴/第15回 チェチェン国際空港がチェチェン人の命を脅かす!?(下) | トップページ | アフガン終わりなき戦場/第17回 アメリカナイズとの闘い(下) »

2009年5月 1日 (金)

アフガン終わりなき戦場/第16回 アメリカナイズとの闘い(上)

 昨年通訳をしてくれたワリッドが私の宿泊しているムスタファ・ホテルを訪ねてきた。かさこそ大分減っていたが、彼の鞄からはウォッカが出てきた。
「久しぶり。調子はどうだ?せっかくだから飲もう」
 陰気なムスタファ・ホテルが、旧知の訪問者のため、少し明るく見えた。
 ムスタファ・ホテルはカブールに来たことがある外国人なら誰でも知っているカブールの名所だ。5階建てで、自爆攻撃目標筆頭の内務省から徒歩1分。外国人が宿泊できるホテルの中では最も安い1泊30ドル。貧乏なジャーナリストと死を恐れない若いバックパッカーがいつもたむろしている。
 窓という窓、扉という扉に鉄格子がはまり、夜には誰もが自分がムショの檻の中にいるのではないか、という妄想に襲われる。今年は、治安悪化のため自己取材ができず、従軍の許可を待つフリーのジャーナリストが多い。バックパッカーも相変わらずいる。扉は鋼鉄製で分厚いが、隙間は大きい。あちらこちらからロック・ミュージックや大麻の煙が廊下に染み出してきている。
 私たちは比較的静かな5階の談話室でウォッカをコーラで割り、話した。ちなみにコーラはアフガニスタンで製造されたものだ。
「まあ、まずは再会を祝して乾杯。イッシャーラー。ところで、今日はアメリカ大使館に行ってきた。後2ヶ月でビザが下りると思うんだ」
「マジか?」
「Fucking  serious!(マジさ)」
 乾杯をして、グラスを開けた。ワリッドの持ってきたウォッカはそれで終わり。私は部屋から成田空港で買ったワイルド・ターキーを持ってきた。
「だから日本人って好きさ。愛してるぜ、ジャポン!」
 ワリッドは08年2、3月の取材で通訳を務めてくれた。ほぼ完璧に近いアメリカ英語を話し、アフガニスタンで受けうる最高の教育を受けてきた良家の長男だ。私と同い年で24歳。父親はどこぞの省庁の高官。アメリカのポップミュージックを愛し、イスラムの教えを古臭いと吹聴し、ハイネケンを最高と言う、今時のアフガン・エリートだ。
 一見軟派だが、仕事となると驚くべき能力を発揮した。彼といるだけで、普通ならありえない人からのインタビューを得ることができ、難民キャンプだろうが、外務省の面倒くさがりや役人の前だろうが、場を和まして物事を円滑に運ぶことができた。人身掌握術に異様に長けているのだ。
 その能力を駆使したかどうかは知らないが、アフガニスタン系アメリカ人の美人と婚約し、今はアメリカ行きのビザの発給待ちだ。どこで取ってきたのか、今はUSAID(アメリカのODA)で仕事をしている。毎月2000ドルの給料に、ボーナスまでもらっている。
「今回の取材はどうだい? うまくいってるか?」
「まあまあだな。昨日ミスター・ムトワキルに会ってきた」
「マジかよ? タリバンのスポークスマンじゃないか」
 彼は本当に驚いたようだった。ワイルド・ターキーが少しグラスからこぼれた。
 私はオバマ政権の新しい政策について各方面にインタビューをしていると話した。
 ムッラー・アフマッド・ムトワキル氏はタリバン政権時代、外務省のトップにいた。アメリカ侵攻時、逃げ遅れたか、計画的か分からないが、カブールに残り、タリバンからの脱退を宣言したことでグンアタナモ送りを免れた。今でもテレビや新聞などでタリバン寄りの意見を発言することで知られ、カブール市民の誰もが彼をタリバンのスポークスマンだと疑わない。事実、タリバンと外国メディアのパイプ役に近い役割を果たしている。
 私はムトワキル氏のインタビュー前日に、カルザイ大統領のアドバイザー、ワヒッドラ・サバウーン氏にインタビューをしていが、正直ムトワキル氏のほうに魅力を感じた。
 サバウーン氏はアメリカ侵攻以前イスラム原理主義組織ヒズブ・イスラミのナンバー2を勤めた男だが、肌はアフガン人にしては異様に白く、握手した際の手は驚くほど軟らかかった。銃や鍬を扱っていた人間の手ではない。比べてムトワキル氏の手はごつごつとして硬く、日焼けした肌はまさに「アフガン人」を感じさせた。
 ムトワキル氏はアメリカ侵攻に会わせて「下野」したといってもいい。たずねた彼の家はこじんまりとしており、政権の中枢にいた人物の邸宅とは到底思えなかった。
 オバマ政権の政策に関し、私は3つに分けて質問した。オバマ政権のアフガン政策大綱の大筋は3つ。
「穏健派タリバンとの対話」「軍による復興支援(PRT)の強化」「テロリスト掃討のための増派」
 1つ目の「穏健派タリバンとの対話」についてムトワキル氏は、まるでできの悪い生徒に言い聞かせるように答えた。
「穏健派タリバンとはそもそも何か。タリバンは元々『学生』という意味だが、今は独立と自由のために戦う戦士のことをタリバンと言う。定義が変わったのだ。タリバンという言葉はアフガン人にとっても今は政治的な言葉だ。戦わない者はタリバンと呼べない。仮に戦わないタリバンと和平を結んだとしても、それで戦いが終わることは無い」
 なるほど。言いえて妙だ。黒々とした髭に隠れた口からは、2つ目の質問に関しても明確な答えが飛び出した。
「PRTの必要性についても疑問だ。なぜ支援をするのに軍服が必要なのかね。一般的なアフガン人からすればPRTも戦闘部隊も見分けがつかない。誰だって軍服を着て銃を持っていれば怖がるだろう。タリバンの攻撃対象が増えるだけだ」
 なるほど。では、増派に関しては?
 ムトワキル氏は慎重に言葉を選んだ。
「私はタリバンでは無いので、推測でしかないが、無意味だろう。アメリカはタリバンを根こそぎアフガニスタンから追い出そうとしているが、それは不可能だ。なぜなら、タリバンはアフガニスタンの一部だからだ。タリバン1人殺せば、その家族全員がまたタリバンになる。タリバンは自由と独立を得るまで戦う」
 ムトワキル氏は他にも、タリバンの精神。イスラムの教え、アフガニスタンの現状について話したが、非常に面白い。彼の目指すものに完全に同意するつもりは無いが、彼の現状分析は非常に現実的で、私の見てきたものを説明できた。少なくとも、前日に会ったカルザイ大統領のアドバイザーよりは正確な情報だと思えた。(白川徹)

|

« ロシアの横暴/第15回 チェチェン国際空港がチェチェン人の命を脅かす!?(下) | トップページ | アフガン終わりなき戦場/第17回 アメリカナイズとの闘い(下) »

アフガン・終わりなき戦争」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: アフガン終わりなき戦場/第16回 アメリカナイズとの闘い(上):

« ロシアの横暴/第15回 チェチェン国際空港がチェチェン人の命を脅かす!?(下) | トップページ | アフガン終わりなき戦場/第17回 アメリカナイズとの闘い(下) »