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2009年4月24日 (金)

諫早湾の闇――「開門なら殺しにいくぞ!?」――

Photo_3   長崎の諫早に行き、松永秀則さんにお話を聞いた。松永さんはいわば反乱軍の総大将めいている。農水省に押さえつけられ、水質汚染で水揚げがなくなり、泣く泣く干拓事業に協力する小長井漁港の中で一人で立ち上がった人物である。
 有明海の水揚げ量は最盛期の16パーセントしかない。彼は年収2000万円を稼いでいた潜水漁師だったが、いまや年収は当時の6分の1。小長井町は堤防の数キロしか離れていない。松永さんは97年に完成した堤防の影響だとし、昨年、総工費2300億円の国策工事に立ち向かい、小長井町の同志9人を率いて、堤防の即時開門を求め、長崎地裁に提訴した。今回、松永さんら原告の展望を聞かせてもらい、彼ら原告団の勝ち目があることは確信できた。
 農水省の干拓事業の目的が全部嘘だと思えてきたからである。
 全長7キロ。諫早湾を横切る大堤防は、諫早市民を高潮と洪水から守るという大義名分の下に完成した。ところが、97年に堤防完成後に諫早で起きた高潮被害件数は17回。堤防完成以前よりも増えた。堤防の内側に淡水化された調整池が生まれたが、以前、そこは干潟。ムツゴロウの生息地だった。いまや調整池の底に水没し、生態系が崩壊された結果、そこに棲む海の生物はもういない。ヘドロが沈殿して、悪臭を放つ。
 現在、農水省は調整池の浄化を立案しているが、浄化には失敗し、過去30年で5000億円を無駄にした岡山の児島湾と同じ将来が彼らの構想に潜む。
 調整池の浄化には今後200億円から300億円も要る。農水省官僚は、分かっている。諫早でも同じ失敗が起きると読んでも、官僚の面子とゼネコンへの天下り先を狙って、公共予算の追加を考えているのだ。諫早干拓事業の総工費はすでに2300億円。それでもまだ金がいる。工事にかかわったのは、岩手で小沢に政治献金をやらかした西松建設も含めて、諫早干拓事業の事業費群がった大小のゼネコン会社13社。7億円の不正政治献金を長崎県の自民党県連に出して逮捕劇が起きてからそう遠くはないのだが、同じ愚を繰り返すのだろう。
Photo_5   現地で聞いた笑い話を一つ挙げると、巨大な調整池には、諫早市内の河川から流れ込んだ淡水のスッポンがいる。彼らが殺したムツゴロウなど干潟の海洋生物の死は棚にあげて、調整池に生息する淡水の生物として、観光客相手のエコツアーのPRに使っているが、開門すれば、3000万円の淡水生物救出目的の予算も真顔で計上したいとまで九州農政局はいう。それも利権の一部にはなる。この話を聞いて。阿呆らしくなった。段階的に海水を入れると、徐々に塩分が増える。何もしなくても、淡水動物は、上流の淡水の川に戻るに決まっている。
 今、100年に一度の財政危機の時代である。農水省と下部組織の九州農政局に出す公共予算はないと踏んだのか、自民党内部で、干拓事業の見直しと、堤防開門を促す声が古株議員の間から出ている。公共事業費を土建屋に出す不毛さは分かってきたのだろう。それでも、農水省は最高裁まで裁判闘争をするから、「中止して開門にせよ」との大臣の鶴の一声を待つしかない。しかし、原告の弁護団によれば、農水省の官僚になめられる民主党議員が新政権の大臣になるより、胡散臭くても睨みがきく古株の石破農水大臣の方が適役らしいのだが、そこまで、麻生政権は持たない。
 昨年、佐賀地裁で3年以内の開門命令が出た。農水省は、環境アセスメントと題して裁判所が出した開門までの猶予期間を、先送りの口実にして、3年後に、アセスメントの結果を、開門反対派の諫早の農業関係者と協議し、開門できるか否かを検討するというが、諫早の開拓推進派は利権をすでに国家から陰に陽にもらっている。3年後にまた「地元の反対」を口実に開門案は消えることは必至。そこを見越して、3年かけて再調査という。つまり、悪質な遅延行為であることを承知し、形式的な第三者委員会の再発足を提唱した九州農政局にはあきれるが、役人も防戦ばかりではない。役人の狡猾さは超一流だった。事態は複雑怪奇。闇はどこまでも深かった。
 諫早の帰りに、福岡の大牟田のその漁協に立ち寄り、現状を聞くと、同じ有明海周辺でも、諫早の対岸になる地域は、海苔の被害が大きかった。干拓事業が水質を汚染して、赤潮が出た結果だと彼らはいう。 自民党の古賀誠の選挙区でもある大牟田の某漁協は解散になっていた。解散処分の口実は漁協の違法行為である。海苔養殖をするには、一つの漁協に海苔を養殖する資格を持つ20人以上の漁協組合員が要る。全国にはいくつも、20人以下の海苔生産者しかいない漁協があるが、古賀らに狙い撃ちにされるとひとたまりもなかった。くだんの法律は、戦後、海苔養殖がブームになった頃の遺物だが、福岡県庁はこの古文書めいた法律を持ち出して、開門要求をする地元漁協を解散させた手口があざとい。
 長崎のあさり業者らには勢いがある。身代わりに、福岡県は、構成員40人弱の零細漁協の反乱を鎮圧した。農水省の役人か政治家が裏でやったのだろうが、どう買収したのか、20人いた海苔関係者の一人を辞退させた。漁協も地裁に提訴したがあっさりと敗訴。漁協のボスはそのまま引退した。
 もっとも、干拓推進派の保守系勢力にも裏切りの可能性は出ている。数年前に天皇が長崎県の佐世保で開催された海の記念日のイベントに参加し、環境破壊を嘆く歌を詠んだという。同席した金子長崎県知事は蒼くなり、「陛下の歌は諫早とは関係ない」と釈明したが、この点を漁民の開門に大反対する市議に出すと、ぼそりと一言。
「開門を口にすれば天皇でも殺しにいくぞ」
 目は笑っていた。口が滑ったのである。遠来の取材者に対するジョークだったが、発言はICレコーダーに記録している。彼は開門派が勝てばそちらにつくとも公言する。農民も漁民も農水省に分断されて仲たがいされていることを感知するセンスはある人物だったが、不敬発言の方は、いつかコピーして長崎県議会に出すかとも、チープなブラック・ジャーナリストめいた妄想をしてしまう。
 このネタはJR東日本の組合が出した「自然と人間」と「週刊金曜日」に書いている最中。連休明けには記事が出る。お笑いあれ。

 諫早干拓緊急救済本部のサイトはココに。諫早干拓反対に生涯を賭した故・山下弘文氏が残したグループが継承した団体である。(李隆)

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