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2009年4月21日 (火)

●サイテイ車掌のJR日記/川上健一の小説に涙

○月×日
 『四月になれば彼女は』(川上健一著)を読んだ。
 まず、書店でこの新刊を目にした瞬間「これだ」と直感した。なんていかしたタイトルなんだろう。かなり強烈な衝撃でビビッときた(大袈裟にいっているのではないですから)。中身なんてどうでもいい。この背表紙(タイトル)が私の本棚に並んでいるだけでも十分な価値がある。本気でそう思った。
 ふと我れに返ると、このコーフンを自分でも驚きながら、春を待ち焦がれていた私に必要なのはこれだったんだと納得した。そうなればもう何の迷いもなくこのタイトルだけで即行レジに向かったのだった。

 変なやつだと思われるかもしれない。しかしそれは別に春だからではなく、私にはこうした突拍子もない変なところが多分にある。それでも家に帰ると、やっぱり一気に読んだ。
 で、このタイトルは、60~70年代の最強のデュオ・グループ、サイモン&ガーファンクルの佳曲として有名なのだが、知っている人も多いだろう。私も中高生の頃は夢中になって聴いたものだった。中学生の時に観た、ダスティン・ホフマンの映画「卒業」の挿入歌でもあり、「エ~イプリル♪」で始まる2分にも満たない短い曲だが、内容ははかなくも美しい恋の歌だ。
 英語はからきし苦手な私だったが、辞書を片手に悪戦苦闘、訳詞までしたことを今でも鮮明に覚えている。
「4月になれば彼女はやって来る。5月、一緒に暮らす。6月、彼女は心変わりする。7月、突然いなくなる。8月、彼女は死ぬ。9月、彼女との思い出に耽る」と、間違いだらけの訳詞をさらに要約するとこうなる。
 あぁ、4月と聞くと感慨を抱かずにはいられなくなる。どうしてだろうか。

 前置きが長くなってしまったが、私は著者である川上健一氏は青春小説の名手だと思っている。氏の小説をはじめて読んだのは『雨鱒の川』だった。これも山村の川で魚獲りをする裸の少年と、その後ろに佇む少女というノスタルジックな本の表紙に惹かれて何気なく買ったものだった。
 内容は氏の出身地である東北の田舎を舞台にした小学生の純愛小説なのだが、かなりシリアスで、思わずこの2人を応援してしまいたくなり、泣けて泣けてどうしようもない大感動作だった。
 ただ、ちょっと気になったのは言葉の壁。つまり、会話が東北弁のために全国の人に理解できるのかということだった。
 それにしても、この2人が大人になったときにどうなっているのか。もちろん結婚すると単純に思うが、続編を書いてもらいたいと期待したのは私だけではないだろう。
 いや……、このままの方がいいのか。大人になればどうしても直面せざるを得ない世の中や社会の厳しい現実。ややこしい人間関係。不純でドロドロしたものなどこの2人には似合わない。そんなものは読みたくないか。ん!? そんなことより青春小説からはみ出してしまうよな。
 それからは氏の作品を立て続けに読んだ。『ららのいた夏』『宇宙のウィンブルドン』『翼はいつまでも』などなど。どれも痛快で読み出したらもう止まらない。ユーモラスで破天荒なのだが、おやじの胸でもキュンとなるような切なさもまた絶妙だ。思わず涙が溢れ出るというのに、読後感の清清しさといったらこれまた格別な作品ばかりだったのだ。
 さて、本書『四月になれば彼女は』だが、お馴染みの青森が舞台で、何故かいまいち釈然としない日々を過ごしていた主人公の沢木圭太が高校を卒業して地元に就職するという前日24時間の話だ。
 ホンダのカブで町中を走り回り、仲間や小学校時代の初恋の人と出くわしたりと、これでもかというくらいに起きる一日の出来事が実に濃密に描かれている。で、最後は東京への旅立ちを決意するというどんでん返しの展開となる。
 それにしても、まるでハチャメチャ、ドタバタが多すぎる。しかしね、私もこの頃はこれと似たり寄ったりでおバカなことばかりやってたなぁと気恥ずかしくなってしまった次第だ。誰もが程度の差こそあれ、長い人生に於いて、少年から大人へと成長していく大事な通過点であることは間違いない。

 あの頃は確かに純粋であった。

 また、4月は出会いと別れ、そして旅立ちの季節だ。ある意味、決断のときなのかもしれない。
 この本を読んで、またしても少年時代に戻りアツクなれたのはよかったが、タイトル負けではないのかという印象が否めない。

 どれどれ、レコードでも聴こうかな。もちろん今夜は黄金のデュオ、サイモン&ガーファンクル特集だ。いいな、いいいい。透き通る歌声。春にぴったりだ。「エイプリル・カム・シー・ウィル♪」。(斎藤典雄)

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