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2009年4月10日 (金)

土建国家の明暗――諫早と角島

 最近、公共事業について濫読をしている。岩波新書で5冊ほどあるが、法政大学で教えている五十嵐敬喜弁護士と朝日の外信部に長かった小川明雄の本は読ませる。
 彼らの関心は、日本の国富がどこに消えたかのか。この点を徹底的に国際比較し、ハコ物と道路作りに費やされた公共事業が多い背景には、議員立法がほとんどなく官僚支配が政治システムを牛耳っていることを淡々と深く実証する。いい書き手だ。
 彼らの本をいくつかあえて紹介させていただくが、
公共事業をどうするか』(岩波書店)
公共事業は止まるか』(岩波書店)
貧困救済に使わねば 五十嵐敬喜・法政大教授」(『東京新聞』08年3月22日)

 五十嵐氏の視点を踏まえて、地方に行くと発見がある。ダム、高速道路、一般道路などに回した公共事業の600兆円の赤字の原因になっていることは自分の足で歩けば即座に分かる。
 と、えらそうな結論を冒頭に持ってきたが、何のことはない。体力不足を意識してきたので、最近サイクリングをやっている。週に数回ほど。昨日は、地元の公共事業の現実を見たくなって下のサイトの角島にかかった橋を見にいった。
 安倍晋三に見切られて、警察に裏で脅されて、市長選挙出馬を取りやめたという噂が地元で出ているが、映画「4日間の奇跡」という甘たるい三文映画を手がけた地元出身の佐々部清監督は江島元下関市長を乗せて、角島をロケに使った。
 角島までは距離にしてほぼ60キロ。ロードレーサーに乗ってちんたら走りながら、裏日本の風情を凝視した。圧倒的に手入れがいい国道にきがついた。小生、北米、欧州、中米、東南アジアを走った経験があるが、日本の道路は世界一綺麗である。五十嵐弁護士らの公共事業批判本を読んでいなければ、路面の美しさの意味を見落としただろう。何度も何度も改修し、過剰に丁寧な道路標示(たとえば、「道が狭くなるので要注意」だの「自転車を押していきましょう」)も歩道につけ、世界一コストが高い道路網が生まれていた。
 自転車大好き少年だった頃が30年以上前にあった。今回走った山陰の道は何度もその頃走った。当時でもやや舗装が荒かったが、すでに立派な舗装だった。後年走ったアメリカの一般道路の質をその時点で越えていた。山陰を走りながら、30年前と比較し、すでに30年前に道路網は高度成長期の産物として完成していたことを痛感し、90年代以降の景気対策とばかりに地方の業者に仕事をばら撒いた土建国家の実像を少し実感した。――道端に土建、建築関係の個人業者を多く見かけた。
 五十嵐敬喜氏はいう。90年代のバブル崩壊後、地方にも補正予算は流れ込んだが、高度成長期とは異なり、地方の土建屋に還流された富は薄くなった。新自由主義は地方の土建屋にも悪影響を残したわけである。
 気障だが、数時間、低速で自転車に乗っているときは暇つぶしに音楽が要る。今回はモーツアルトと井上陽水とスプリングスティーンを主にウォークマンで聞き流しながら走った。メーター表示は常に20キロ前後。大学時代にレースをかじった頃がある。当時ならばたぶん40キロ前後だったと思う。劣化である。夏までにどこまで戻るか。
 遅くなったメリットもあるにはある。情景を観察する暇ができた。レースごっこをしていると路面の一点だけを見据えて黙々とペダルを高回転で回すだけ。風景を解読する余裕はない。
1  近々取材で長崎県の諫早市に行く。そこには、50年代に発案されて、着工されたのが80年代。2000億円以上を使ってまだ完成できていない干拓地がある。諫早のひとにぎりの反対派が自然破壊にノーを突きつけた結果である。現在、佐賀、福岡の地裁ではいずれも国側が敗訴。控訴審が福岡高裁で続いているが、今度、お目にかかる長崎の漁師は長崎地裁に提訴したばかり。余所者である小生は、どうして一番の被害者である長崎・諫早の漁民が黙ってきたのか。この点が見えなかったが、えぐい話の輪郭は掴んでいる。
 映画の舞台になった角島開発は地方に雇用を生んだ。たぶん島の方々も喜んでいる。ゼネコンも安倍も。公共事業で懐が豊かになって。
 ところが、諫早ではそうではない。漁師は廃業に追い込まれた。補償は1年分弱。交渉した建設省(当時)の役人は、今後も漁はできると保証した。信じた結果、生活は破綻。自殺者、家庭崩壊などが増えた。農水省の役人にすれば、何人自殺者が出ても、屁ともないことだけは確実。それこそ、自殺との因果関係を証明してくれとのたまうという。
 諫早に自転車を持ち込んで、夜はテント。昼は干拓地を走り回り、夕方から反対派の漁師の方の船に乗せてもらい、なぜ、最後の最後までもっとも被害を受けた諫早の漁師が沈黙してきたのか。この点について数少ない提訴側の松永秀則氏に教えを乞うつもりである。さて、どこまで土木オンチの小生に理解できるか。
 大胆にいえばである。ゼネコンは数社倒産させてくれ。あまった予算と防衛費を削減して、社会保障費に回してくれ。
 五十嵐氏によれば、医療費も含むアメリカの社会保障費は日本以上だという。新自由主義の本家だから、日本以上に苛烈な状況が社会的弱者に待っているのかと決め付けていたが、考えてみたら、飼い殺しのような経済状況で黙っているアメリカ人は想像できない。どたまにくると福祉課に行って銃を乱射する程度はやりかねない。オバマの地がまた少し好きになった。(李隆)
 

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