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2009年4月25日 (土)

ロシアの横暴/第14回 チェチェン国際空港がチェチェン人の命を脅かす!?(上)

 ロシアの経済危機はついにチェチェン鎮圧作戦終了にまで及ぶことになった。
 3月末に「チェチェンテロ対策作戦は終了、駐留する5万のロシア軍のうち2万は撤退」との噂が流れた。4月1日になると「終了はしたけどロシア軍は撤退しない」と言いだして、「エープリルフールか」と言われた。だが遠からぬ将来に撤退することは確定的なようである。なぜ確定的なのかというとほんとうに駐留維持費がないからだ。具体的にいえば兵士の給料が払えないところまできている。いわゆるスッカラカンだ。ただ表だってはそう言えないのでテロ集団はほぼ壊滅させたので・・・・と、ご丁寧にテロリストの数を細かく並べ立てたりしている。
 しかし下院議会議長がうっかり口をすべらせたのか、正直なのか、金がないからチェチェンでの兵力維持ができない、と公の場で発言してしまったので、もう隠しようがない、と観念したのだろう、経済危機はなにもロシアだけじゃあるまいし、米国だって同じだ、イラクから撤退だ、と開き直っている。
 さて、この撤退するしないのすったもんだの最中3月28日、全員がチェチェン人で編成されるロシア軍治安部隊「ヴォストク」の元司令官スリム・ヤマダエフがドバイで殺害された。ヤマダエフという人物は第二次チェチェン戦争が始まったとき、チェチェン独立派からロシア側に寝返り、ロシア軍のチェチェン入城に大きな働きをした。これを買われてロシア軍の司令官となったが、そのうちに同じようにロシアに飼われた同胞であるはずのカディロフ・チェチェン大統領の親衛隊と対立し、司令官を解任されたという経歴を持っている。当然のことながら下手人はラムザン・カディロフの命をうけた殺しの専門家であることを誰も疑っていない。
 撤退交渉の最中にこんな大物殺人事件が起きるなど、血なまぐささが抜けないチェチェンが国際空港開港に執念を燃やすのはなぜだろうか。
 現在チェチェンに外国人は入れない。もし公式に入れることになったとしてもモスクワ経由となる。
 国際空港が開かれれば、モスクワみたいなうさんくさいところは経ず、直接チェチェンに外貨を呼びこめる。もちろんロシア側にだって戦争屋イメージを払拭し、しかも各共和国に交易の自由を保証しているように見せるプラスポイントがある。
 自由経済区にして大もうけをしたいほかに何かを狙っているような気がする。一時は(撤退話はエイプリルフールを言われたころ)ロシア軍が撤退しなくても国際空港だけは開港させよ、という案も出たほどだ。実際、在日アメリカ軍とちがって、在チェチェンロシア軍の駐留費用はロシア持ちだからチェチェンにとっては撤退などどうでもよい。つまり今回の撤退交渉は国際空港を開くためで、ロシア軍関連は二の次だったのだ。
 チェチェン国際空港開港案で真っ先に名前があがったのが何かとチェチェンに縁の深いトルコである。もともとトルコにはカフカス戦争のころの離散民末裔が多数帰化している。そこに最近はチェチェン戦争難民が大量に流れ込んだ。最近チェチェンの首都に建てられた豪華なモスクはトルコ様式である。トルコに逃れた難民は昔から縁があったことのほか、同じイスラム教文化圏のそれもスーフィズム(神秘主義)で、ロシア語の及ぶ地域でもあるというのでチェチェン人らしさを失っていない。だが彼らは戦闘がほとんどなくなった現在もチェチェンに戻れないでいる。その理由はカディロフ大統領派の反対勢力狩りを恐れているからだ。
 こんな事情を抱えるチェチェン難民だが、最近トルコではチェチェン人同士の殺人が急増している。大半がカディロフが送った暗殺者によるものと言われている。同様の事件はフランスでも多発しているらしい。トルコ警察がフランス警察に「チェチェン人犯罪取り締まりノウハウ」伝授を依頼したと言う話もある。
 こんな時にチェチェン空港を国際化すれば犯罪も一気に国際化するのではなかろうか。カディロフに逆らう者はどこにいたって摘発してやる、と。空港が開かれて民間人の往来が活発になると一般市民による一般市民の監視・密告が可能になる。監視密告はスターリン時代に充分に体験済みのはずなのに。(川上なつ)

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