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2009年4月 9日 (木)

靖国神社/第14回 新春・絵馬の絵馬が靖国に集合!

 日曜日の正午すぎに靖国に行くと、参道の両脇に観光バスが並んでいるのが目に入る。そして、参道をかなりの数の人が本殿へと向かう。
 この日は、神門のあたりで軍服を着た50歳前後かと思われる男が観光客たちの注目を集めた。レプリカであろう日本刀を鞘から抜いたままキビキビ行進し、空中のどこかを見つめたまま、
「けぇぇぇーーい!!」
 と甲高い叫び声を上げたのだ。
 観光客たちのある者は驚き、ある者は失笑をもらしている。「靖国ってなんだかすごい所なのね」とおばさん方がいいものを見たとばかりに囁きあうが、たしかにこれが靖国なのである。
 靖国では、さすがに日本刀を抜いて叫び声を上げる軍服にはめったにお目にかかれないが、特になにをするでもなく佇む軍服姿なら外苑休憩所でたまに見かけることがある。
 よく目にするのは、三味線をペチペチかき鳴らしながら軍歌のような歌を歌う男性だ。ひと目でその筋と分かる男が、「勤皇」などと背中に大きく書かれた特攻服姿の若者を何人も従えて、肩で風を切って参道を歩いてゆく姿もたまに見ることができる。
 これまでこの連載で紹介してきた遊就館やモニュメントだけでなくとも、東京のド真ん中でありながら異質なものをたっぷりと含んだ空気を靖国神社という場所にいる人たちから読み取ることは十分にできる。
 そうなれば、その異質なものの典型といえる日本刀の軍服にインタビューしてみるのが靖国取材班の役目だろうということになるのだが、レプリカとはいえ刀で斬りつけられたらと思うとコワいので今回はパス。
 日本刀の軍服は参拝者たちの注目を集めたが、靖国では参拝者たちを楽しませようという姿勢からか常に何かしらのイベントを行なったり、境内を貸して他の団体の催しが行なわれていたりする。昨年の10月号に掲載した「地酒と酒器うつわ祭り」が後者にあたるだろう。
 今回は、1月中に靖国が主催する全国神社奉納絵馬展を見に行った。
 参集殿をぐるりと囲むようにして、絵馬を並べたパネルが立てられていた。博物館の博物館のようで、マニアにはたまらないイベントだろう。
 来る前は「絵馬なんて見たいもんだろうか」などと思っていたが、300点以上の様々な絵馬が堂々と飾られているのはさすがに壮観。足を止めてしばらく見入る人も多い。
 黒塗りの木で作られたもの、モミジの葉形のもの、中にはひょうたん型の絵馬という変わりダネも発見。バスでやって来たどこかの観光客が、地元の神社の絵馬を探す場面も見られた。
 靖国神社の職員にたずねたところ、展示されている絵馬はすべて靖国側から展示をお願いしているとのこと。 参集殿の入り口あたりには、遠くからでも目立つ巨大な絵馬が飾られていた。愛知県名古屋市の伊勢絵馬協賛会という団体から奉納されたもので、ヨコ2.76メートル、タテ2.19メートルもある。
 なぜ巨大絵馬なのだ、という疑問はあっていいところだが、日本刀を抜いて叫ぶ男がいても、警備員が顔色ひとつ変えないような場所である。
 新年気分も過ぎたはずの時期だが、人出は相変わらず多い。今年の初詣では、訪れる人全員に振る舞われる甘酒が全部なくなってしまい、飲めなかった人もいるという。
 私ごとで恐縮だが、最近久々に知り合いにあったとき、友達が「初詣は靖国に行ってみたよ」と言ったのだった。なんで靖国にしたのかと聞くと、小林よしのりを読んで感銘を受けた、みたいなことを言うではないか。とうとう身近にも現れたか。
どんな認識で靖国を見ているのか分からないが、たしかにその勢力はじわじわ広がっているようだ。(宮崎太郎)

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