書店の風格/第30回 八重洲ブックセンター本店
八重洲ブックセンター本店は、東京駅八重洲南口を出てすぐ、細長く黒い看板を従えてそびえている。このスタイリッシュな細さを、昔の人は「いき」といったのだなあなどと思いながら入り口をくぐると、左壁際には目玉商品の大きなパネルが3点。「今週のお勧めは誰がなんと言おうとこれです!」というゆるぎない自信が感じられる。
堂々8階建て、日本の最先端を行くこの書店は、流行に敏感でありつつも古き良き物を大事にしたい人々の願いを具現化したようなつくりをしている。1978年に前代未聞の大型書店として開店した本店は真新しい建物とはいえないが、どこもかしこも磨きぬかれているのはもちろんのこと、什器の配置にも工夫をこらしている。イチオシ本として並ぶのは、出来立てほやほやの話題沸騰新刊、のみならず、名著と呼ばれているものもちゃんと隣で展開されている。
どのフロアも工夫が凝らしてあるが、この度は弊社出版物の傾向柄、4階社会棚をご紹介したい。棚の規模は確かに大きい。しかし他の大型書店と比べて平均的な大きさである。なのにこの充実度はなんだろう。仕事柄、人文・社会棚は星の数ほど見てきたが、このお店に来た団塊おじさん方の満足感はきっと日本一だ。ジャンルの細かさが他店の10倍は密なのだ。運動系だけでも、「学生運動」「労働運動」「エコ」「ジェンダー」の区切りは普通だが、「ブント」までいくとあまり、というか全く見たことがない。人文棚になるともっとコアで、中村天風や安岡正篤でひとコーナーが出来てしまっている。さらに哲学系で一番目立つのが、哲学系雑誌のバックナンバーを集めた棚だ。まさに各界の専門家・オタク層のかゆいところに手が届く品揃えである。
そしてあまり言及されないが、八重洲ブックセンターののホームページもサービスに徹している。「各店情報」の「本店」ページへ飛んでみると、B1Fから8階までそれぞれ違うページへリンクしているのだが、リンクバナーの下に「※[alt]+0~9の数字→[enter]でも各フロアのページにジャンプします。」と書いてある。書かれたままに[alt]+4+[enter]と操作すると、ちゃんと4階に飛んだ! さらに各階のページには、コーナーごとに棚の写真が掲載されている。フェアや特設が終わるごとに撮影してアップしているということであれば、膨大な作業だ。なかなかできることではなく、私は他にこのようなことをしている書店を新潟の萬松堂しか知らない。
八重洲地下街店は残念ながら閉店してしまったが、本店にはこのまま、温故知新のサービス精神をもって、頑張ってほしいと願う。(奥山)
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