アフガン終わりなき戦場/第13回 ジャーナリストの存在価値
アフガニスタンとの距離を考える。
直線距離にして約4000キロ。日本から飛行機で行く場合、直行便は無い。パキスタン航空ならば、北京、イスラマバードを経由する。途中イスラマバードで1~3日飛行機を待たなければならない。ドバイ経由ならある程度早くなるが、地球で最もアクセスの悪い国の一つだ。日本在住の人間が易々と訪れることのできる場所ではない。
しかし、距離以上に遠いと感じるのは、意識だ。誰もがアフガニスタンと言う国は聞いたことがある。アフガニスタンで連想するものと言えば、
「テロの温床」「狂信者の巣窟」「911の犯人ども」「アルカイダのアジト」
アフガニスタンという名詞が連想させるのは上のような言葉だろう。テレビで見るのは、カラシニコフやロケット・ランチャーを担いだ男や、自爆攻撃で破壊された建物や車の映像ばかりだ。
私たちの生活には取り立てて関係の無い、遠い世界の、攻撃的な連中の国。
テレビでアフガニスタンについてしたり顔で話している人たち。口から「アフガニスタン」という単語が何度も飛び出す。しかし、話しているのは「テロとの戦い」や、オバマ大統領の政策に関してだけだ。
どうせ、自分たちとは関係ないことだもの。
そういう見方が一般的なのは知っている。実際にアフガニスタンを歩いてきて、現地に友人たちのいる私と、日本で生活する人たちでは、思い入れが違う。
海外を取材する私にとって、この悩みは常に付きまとっている。
確かに、身近なことが重要なのは確かだ。日本のニュースが国際ニュースよりも大きく取り上げられることもわかる。
けれど、「少しでも眼を向けてほしい」「惨状を知ってほしい」と望まずにはいられない。
国連アフガン支援派遣団(UNAMA)のレポートによると、08年の軍事衝突の数は昨年比で31パーセント増加。今年は大統領選挙があるため、軍事衝突は記録的に増えている。今年1月は、昨年同月にくらべて75パーセントも増加している。
民間人の死者もうなぎのぼりだ。
パキスタンとの国境地帯では、パキスタン側のタリバンとパキスタン政府が和平を結んだこともあり、事実上タリバンが政権を担っている。そこを拠点に、アフガニスタンに攻撃をしかけている。アメリカ軍もパキスタンのトライバル・エリアや北部辺境州に侵攻。無人戦闘機や、戦闘機で連日空爆を行っている。
食糧難も深刻であり、ますますケシ栽培にたよらざるを得なくなるだろう。500万人が飢餓線上にある(英オックスファム調査)というのだから、治安どころか明日食べるパンすら無い状態だ。
アメリカ軍兵士による強姦事件も多発している。米国防総省の発表によるとイラクとアフガニスタン合わせて920件も起きている。
今、上にざっと現在のアフガニスタンの状況を書いたが、読み飛ばした方も多いだろう。実際、現地に行かなければ、数字を具体的なイメージとして想像することなど難しいと思う。
わたしが「アフガニスタンが大変だ。アフガニスタンが大変だ」と騒いでみたところで、ほとんど関心は得られない。無力感と言うよりも、徒労を感じてしまう。(白川徹)
| 固定リンク
「アフガン・終わりなき戦争」カテゴリの記事
- アフガニスタン元国会議員 マラライ・ジョヤさんの講演会(2011.10.19)
- 福島原発・立ち入り禁止区域の現在(2011.05.07)
- アフガン終わりなき戦場/第41回アフガン人と行くアフガンの仏像展(下)(2011.02.24)
- アフガン終わりなき戦場/第41回アフガン人と行くアフガンの仏像展(上)(2011.02.17)
- アフガン終わりなき戦場/第41回イスラムから見た法治国家(下)(2010.12.30)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント