ロシアの横暴/第13回 経済危機とロシアの崩壊(上)
ロシアはどこに行くのだろう?
グルジアのある元政府要人がサーカシビリ大統領の失策を批判して言った。
「グルジアはロシアの挑発に乗って戦争を仕掛ける必要などなかった。放っておけば近々ロシアは崩壊してしまうのだから」、と。2008年8月に起きたグルジア戦争はけんか両成敗的に終息して、グルジアの思惑もロシアの思惑も何となく尻切れトンボで終わっている。国家にとっては戦争よりももっとこわい経済危機が地球上を荒れ狂うことになったので、グルジア近辺のことなどどうでもよくなったようだ。形式はどうであれ、戦争は早く終わる方がいい。だが国民にとっても戦争より大きな犠牲が出そうな経済危機、ロシア破産・崩壊の可能性も大いにある。
ただ米国発の経済危機の話が大きすぎて、ロシア関連は影が薄いようだ。
原油価格の暴落で大被害をうけたロシアだが、それでも「大変だ、困った」と言えない立場にある。ソ連崩壊の直後はなんでもすぐに「共産主義のせいだ、だから助けてくれ」「いま新生ロシアを見殺しにすれば損失が大きいぞ」と泣いたり脅したりしておけば済んだが、今はそんなセリフも通用しない。共産主義は撲滅したからだ。だが、大国ロシアの威厳は保たなければならない。したがって経済危機でロシアの国庫は危機に瀕しているとは口が裂けても言えない。結果大盤振る舞いをすることになる。
その大盤振る舞いのひとつがキルギスにある軍事基地である。最近になって突然キルギスにある米軍基地が閉鎖されることになった。カネに弱い、というよりカネがなければにっちもさっちも行かない中央アジアの旧ソ連構成国だが、そのなかで特にキルギスは米国のアフガニスタン攻撃の発進補給基地として多額の基地使用料と引き替えに場所を提供していた。これには親米の意味はなく、単にカネが欲しかっただけである。今回米軍が撤退することになったのは米国側の言い分によれば基地使用料の値上げ、それも倍額の要求がきたので応じられなかったのだそうだ。
一方、ロシアは突然キルギスへの経済支援に乗り出した。自らも原油暴落で相当危険な状態にあるはずなのに、気前よく大金をくれてやるのは、他でもない、「ロシアは困っていないよ、ほら」というミエである。何しろ旧ソ連構成国同士、より高くより早くカネを積んだ方につくのはお互いよく知っている。おそらくロシアが先にキルギスに接近し、「ロシアなら倍額出すぞ」と持ちかけたのだろう。一方では米国がイラクからアフガニスタンに兵力を移すのに批判的な声もちらほら出ていたが、これとて別段米国のアフガニスタン攻撃に懸念を表してしているのではなく、「カネで旧ソ連構成国を縛るロシア」をちょっと隠す程度のものである。そして米国はキルギスの基地使用料倍額の要求にも応じられないほど疲弊していているが、ロシア経済は健在だということも併せてアピールしたいわけだ。
カネ欲しさに米国に接近した旧ソ連構成国はほかにいくらでもあるが、基地欲しさに米国の方から接近したのはキルギスぐらいである。キルギスがこれに応じたのは当然のことながらロシアの渋い財布より羽振りのよい米国のほうが嬉しいからである。
今回の米国発の経済危機で、懐事情が悪い米国に、値上げ要求をすればおそらく拒絶される、そこに目をつけたのがロシアということになる。キルギスとて無理な値上げ要求をして米国に去られたらそれこそ1ドルも入って来なくなるから、値上げ要求を出したとしても常識の範囲内であるはずだ。
米国のアフガン増兵に警鐘を鳴らすふりはしたが、もともとそんなことは考えたことはない。逆にNATOにCIS上空経由アフガン攻撃を容認したほどだ。ロシアとて屈辱のアフガン撤退は忘れていないわけで、積年の恨みを晴らして、おまけにNATOから通過料をもらえる、うまい話である。(川上なつ)
| 固定リンク
「 ロシアの横暴」カテゴリの記事
- ロシアの横暴/第54回 報じられないロシア国際空港テロの謎(下)(2011.03.03)
- ロシアの横暴/第53回 報じられないロシア国際空港テロの謎(上)(2011.02.22)
- ロシアの横暴/第52回 当局お気に入りの反体制派!?(下)(2011.01.27)
- ロシアの横暴/第51回 当局お気に入りの反体制派!?(上)(2011.01.22)
- ロシアの横暴/第50回 世界のメディアが無視した赤十字職員虐殺の真実(下)(2010.12.23)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント