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2009年2月 2日 (月)

朝青龍のガッツポーズは品格を欠くのか

最初にお断りしておく。柔道や剣道、もちろん相撲も含めて日本で武道といわれている競技に「礼に終わる」が重要で、そうした競技を通してそうした学びを得て日々の活動へ生かしている方々にとって朝青龍の行いを憤るのは当然だ。気高い信念と尊敬する。したがって以下の記事はそうした方々を貶める目的はない。と前置きしても怒られたとしたら筆者の拙さによるものである。あらかじめお詫びをした上で始めたい。

私が疑っているのは上記のような確たる信念に基づかず、外国人でありながら「国技」を席巻する朝青龍に対して島国根性をぶつける手段として「礼に終わる」作法を持ち出している人が少なからずいるのではないかという点だ。
そもそもガッツポーズなる英語は英米には存在しない。和製英語というより日本で生み出されたスタイルへカタカナをあてはめただけではないか。あのように両手をUまたはVの字に突き上げる勝利のスタイルを私が知る範囲での欧米で見たことがない。さまざまな説があるものの「ガッツポーズ」は日本人の発明であるのは疑いないのではないか。もし違ったら私の寡聞である。ご指摘いただきたい。
以前に日本の球団に在籍した元メジャーリーガーに取材した話である。彼によると「ガッツポーズ」ができるのは日本だけ。アメリカで殊勲の本塁打を打ったとしてもあのような姿をするなどあり得ない。やったらブーイングではすまない。次の打席で投手から報復されても仕方ない失礼な行為であると。もしこれが普遍的ならば朝青龍のガッツポーズは日本で発明された日本風の歓びの発露である、となる。
それはそれとして武道の世界だけは許されないという反論もあろう。しかしおそらく同じ武道のカテゴリーに入る柔道ではしばしばみられるという点はどう考えればいいのか。北京オリンピックでの石井慧選手の振る舞いも品格に欠けたのであろうか。なるほど石井選手は毀誉褒貶がある。では1984年のロス五輪における山下泰裕選手はどうだ。一本勝ちで優勝した直後に彼が見せたのは明らかに「ガッツポーズ」だった。しかし、これまた私が知る限り、この山下のポーズは「あの山下にしてよほどうれしかったのだなあ」とおおむね好意的だった。

要するに日本人が日の丸を背負って臨む国際大会ならば武道でも優勝の瞬間に「ガッツポーズ」をしても許される。しかし外国人が日本の武道でするのは許せない……となると明らかな二重基準である。

朝青龍は外国人だ。同じモンゴル出身の横綱白鵬は相撲界とゆかりが深い有力者(日本人)の娘をめとっている。大相撲では引退後の指導者を日本国籍取得者に限っており白鵬の所属する宮城野部屋は一悶着あって現在の宮城野親方に求心力が感じられず部屋付きの熊ヶ谷親方が彼の事実上の師匠だ。その熊ヶ谷親方も50代だから白鵬が日本国籍を得て部屋を継承する可能性は高いと見られている。同じモンゴルの旭天鵬が日本国籍を得て師匠大島親方の養子となったように。日本人はおおむねこうした傾向を好ましいと感じる。

しかし朝青龍は違う。モンゴル人女性と結婚し、ひんぱんにモンゴルへ帰る。自分の国に帰って何が悪いといった旨の発言もしている。このままでは親方株の取得はおろか、現役名のまま5年間年寄として協会に残れる制度さえ利用できない。さらに優勝回数すでに23回の彼は一代年寄を贈られても実績としてはおかしくない。それもモンゴル国籍のままでは無理である。少なくとも朝青龍のこれまでの言動から引退後も指導者として(つまり日本人として)わが国に残る気はなさそうだ。文字通りの「出稼ぎ」である。外国人の「出稼ぎ」が日本の「国技」で勝ちまくる図が不愉快で、それがガッツポーズに代表される「品格」問題として生じているとするならば、それはゆがんだ形の島国根性の表出ではあるまいか。

「自分の国に帰って何が悪い」もしばしば問題になる。手続き上の不備を責められるのは仕方ない。しかし本質的にモンゴル人がオフシーズン(もちろん巡業は除く)に母国へ帰るのは別段変ではない。例えば大リーグのイチロー選手はオフの調整を日本で行う。これをおかしいという日本人はほとんどいない。

逆境という意味で09年初場所の朝青龍は、けがを抱えて試合に臨み、決勝でそのけがの部分を攻めなかった相手の姿勢にも助けられて優勝した上記山下選手と優るとも劣らなかったであろう。しかし山下選手のガッツポーズを非難する声はほとんどなく、決勝相手の姿勢(けが部分を攻めない)を責める人もほぼなく、逆に称賛さえなされた。彼我の違いに違和感を抱くのは間違っているのだろうか(編集長)

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