冠婚葬祭ビジネスへの視線/第30回 棺だけで自力葬(前編)
人の入っていない状態を「棺」といい、人が入ると「柩」という。音は同じで字だけが違う。ただのデカい木箱という乱暴な言い方もできてしまうわけだけど、あなたも私もいつかはお世話になる代物だ。儀式をするかどうかは個人の自由。運ぶのも自分の車でよい。となれば火葬をする日本においては、棺こそが葬送において唯一必要最小限のものとも言える。どんなに節約葬儀をしても、棺だけは用意しなければならないのだ。今回は、棺のみを買う場合、どの程度の値段になるのかを紹介したいと思う。
ただ、訂正点がひとつある。「葬送において、棺だけは必要不可欠である」との物言いをしたが、これが間違っている。火葬において、棺を使用しなければならないという決まりはない(各斎場において規制がある場合は別)。極端な話、布団にごろり横になった遺体を炉に入れることも可能なのだ。しかし、それを知ったからといって棺を使わない人がいるとは到底思えない。そんな勇気、私にもない。「火葬の際には棺に入れること」と定めている火葬場が大半だし。
さて、本題だ。以前触れたように、中国産のものだと棺の原価は約8000円から9000円である(仕入れ個数などにもよる。私が以前いた職場だと、120個ずつ仕入れて9000円だった)。これが5倍から20倍の値に跳ね上がるのだが、白木で飾りのない一番シンプルな型なら60000円台~90000円台が相場。中には40000円台という代物もある。9000円で売ってくれるところもあると小耳に挟み、関係者に話を聞いたところ、「去年まではやってたんですけどね~、今はもうやってないんですよ」という対応だった。ある自治体の斎場だ。状況に応じて値段を変えるのではないかな、と、ふと思った。あくまで推測だが。40000円台だと完全に棺のみというところが多い。でもそれだけでは困るじゃないか。普通、布団をしいた棺に眠ってもらうじゃないか。その上にはまた布団をかけるじゃないか、そしてそうなるからには、枕も欲しいじゃないか。
棺に敷く布団は薄い。枕はダンボール製である。稀に「ダンボールの枕なんかに寝せやがって」と逆上する遺族がいるが、あくまで燃えやすいように作ってある。これを棺とセットにすると、料金が1万円から2万円アップする。…これだけならいいのだが、なんとなく腑に落ちないのは、セットに例外なく白装束もついてくる点だ。仏衣、杖、手甲に脚絆など、要するに「あの世への旅路」に必要な身支度をするためのセットなのだが、もちろん仏式または神式でしか使わない。わざわざ棺のみを取り寄せる人が、古式にのっとった仏式葬儀をするとは思えず、蛇足のような気がしないでもない。オプションにしてしまえばいいのに。
インターネットでも棺の販売はあり、シンプルな桐の八分棺から布張り、天然檜の5面彫刻まで百花繚乱。エコに反応してダンボール棺もある(木のものに比べて少し割高に感じる)。価格は本当にピンきりで、300万から400万、という代物もあるのだが、「入ったらすぐに燃やしてしまう」がキホンの日本ではなかなか売れない。飾り物のない桐の棺が主流である。儀式めいたものをしないぶん、棺だけは豪華にしてあげようという家族もいる。それは人それぞれだ。
本当に「自分たちだけで葬儀をしたい」、そう思うのであれば、棺だけ取り寄せるのが最もよいといえる。しかしそこには落とし穴が。遺体は腐る、ということだ。遺体の取り扱いがわからずに、とりあえず葬儀屋に任せてしまうという弱気に陥らないためにも、遺体はどう扱ったら腐りにくいかということを知っておくのは損にあたらないと思う。ドライアイスや手続きのための副読本を不次と一緒に届けてくれるサービスもあるし、これからは新生児同様ご遺体も自分で扱う時代にしたい。次回は、遺体の衛生保全について基礎的な知識をちょっとご紹介したい。(小松)
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コメント
私は、株式会社満石産業の久野と申します。当社は日本で唯一「冷凍保存用棺」(自宅で1週間以上、冷凍安置ができます)を製造販売している会社です。記事を拝見させて頂き感銘しました。保守的な葬儀業界に立ち向かい少しずつ実績を積んでまいりましたが、まさに記事の通りの業界です。少し勇気が湧いてきました。これからは「棺だけの自力葬」を必要としている人のために少しでもお役に立てられるように考えて参りたいと思います。ご指導頂ければ幸いです。
投稿: (株)満石産業、久野一雄 | 2013年9月 3日 (火) 14時58分
久野様
ご感想をいただき、誠にありがとうございます!光栄です。
ぜひ御社のお棺を拝見したく、そのうちご連絡をさせていただきます。
どうぞよろしくお願いします!
投稿: 小松 | 2013年9月 6日 (金) 22時00分