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2009年2月21日 (土)

ロシアの横暴/第11回「宗教の自由」があったソ連、宗教と癒着するロシア(上)

 「宗教はアヘンである」というマルクス主義の教理はマルクス主義を知らない人にも広く浸透している。ソ連では宗教が禁止されているらしい、なぜならばマルクスが「宗教はアヘン」としているからだとほとんどの人が思っているようだ。三段論法で、ソ連はマルクス主義を敷いている、マルクス主義は「宗教はアヘン」として禁止している、ゆえにソ連は宗教禁止令を敷いている、というわけだ。
 それがゴルバチョフのペレストロイカでソ連にも宗教の自由が認められるようになった。やがてソ連は崩壊し、何でも自由になった。自由は近代国家のポイントのようで、ロシアは近代国家の仲間入りをしたつもりになり、近代国家の「先輩」たちはロシアが近代国家になったと浮かれたりした。
 2008年の末にロシア正教会アレクシー総主教が死んで後任を決めることになった。故アレクシー総主教はゴルバチョフ大統領の任命でその地位を得たが、今回は選挙で選ぶことになった。サミットにも参加するほどの近代国家ロシアがまさか大統領指名で宗教指導者を決めるわけにもいくまい。というわけで教会内選挙で3人の候補者の中からキリル総主教が選ばれたそうだ。選挙で選んだ、といえば聞こえがよいが、本心は近代国家の装いをしなければならないから、選挙をしたのであって、政教分離の原則に基づいているわけではない。袈裟の下の鎧が丸見えだったのでとうとう新聞のレポートのネタになってしまった(それもロシア紙の!)。ロシア正教が政治権力とベッタリになっていることを今では誰も疑っていない。このことを読売新聞がロシアのコメルサント紙を引用しながら次のように報じている。
 「2人の府主教の陣営は、神学上の見解に対する批判に始まり、集票活動の不正告発、正教会が持つ経済的な利権への関与の暴露など、世俗の政治家さながらの『選挙戦』を展開。新総主教の選出を通じ『教会内に「政党」が存在し政治闘争が行われている』(コメルサント紙)ことが示された」(2009年1月27日)
 また産経新聞はキリル新総主教のコメントを引用している。
「キリル府主教は新総主教に選出された直後、アレクシー2世の時代に『国内外の教会が再生したことは疑いない』と称賛した。アレクシー2世は無神論を原則とした旧ソ連時代の体制から自由になった人々に信仰を広め、約20年にわたる在位期間に修道院の数は35倍以上に増え、800を超えた」(2009年1月29日)

  キリル総主教はレニングラード(現サンクトペテルブルク)の出身で、俗な言い方をすればプーチン・メドベージェフと同じ「レニングラード閥」である。その辺まではよくある話で驚くことではないが、驚くのは「レニングラード神学校卒」という彼の経歴である。それなのに「ソ連は無神論を原則としていた」と言い出した。
 キリル総主教は1946年の生まれだから、彼が義務教育を終えて神学校に入ったのは1963年ごろと思われる。宗教を含め各種弾圧で有名なスターリンはすでになかった。前任者のやったことには何でも逆らう、というソ連方式に則ったいわゆるスターリン批判の一環で神学校に入るのも自由になったのかと思いきや、神学校はスターリン時代からちゃんとあった。当時17才ぐらいのキリル青年(本名は?)が何を思って神学校に入ったかは本人のみが知るところだが、少なくとも無神論をやっつけようと思っていなかったことは確かである。ほかの若者が将来の生活安定を目指して進学先を選ぶように、安定した収入が見込まれる「サラリーマン神父」になろうとしたのだろう。そしてこれもほかの若者と同じようにゆくゆくは課長や部長になれるといいな、ぐらいは思っていただろう。ちなみにソ連時代、すべての上級学校が国立だったなか、神学校は「ロシア正教会立」で唯一の私立学校だった。
 無神論が原則なら神学校など認可されるはずもないのに「無神論が原則のソ連」などと言い出したのはなぜだろう。
 先号で少し触れたが「ソ連時代の学校教育はこうだった」と語る旧ソ連人を登場させて現政権を持ち上げる方法はここでも同じで、「ソ連時代、宗教の自由はなかった」と、キリル総主教に語らせるに至ったわけだ。
 ソ連の宗教弾圧の証拠としてイコン(ロシア正教の聖像画)を破ったり燃やしたり、教会の建物を破壊している写真や映像を何回か見たことがある。
 ここで一息入れて「聖像破壊の写真・映像」の真実は何だったのか考えてみる。ひょっとしたら贋作イコンを処分していたのかも知れない。古い教会の改築中だったのではなかろうか?マルクスの教えに従って真面目に「アヘン」を片づけていた可能性もあればいわゆる「やらせ」だってあり得る。イコン泥棒、「アヘン取り締まり」からイコンを守ろうとして安全なところに避難させていたのかも知れない。ただ西側報道機関は「ソ連では宗教は禁止されている」と報道してきた手前、新しい教会を建設しているとか、贋作イコン廃棄中とは口が裂けても言えなかっただろう。写真があれば見てきたようなウソはいくらでもつけるものだ。(川上なつ)

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