靖国神社/第9回 靖国神社 靖国の商売人たち(上)
8月中は新聞やニュースでずっと靖国靖国靖国と過剰報道の感さえあったが、さすがに9月になってその波も引いた。
予想通り選ばれた安倍・新首相が「靖国に参拝する」と公約で宣言でもしていれば別だが、さすがに小泉時代の熱狂はもうこの神社に訪れることはないのではないかと思っている。
それでも、まだまだこれから!と言わんばかりに、首相交代というビッグイベントの波を巧みに乗りこなそうとする者がいる。土産物屋さんである。
本連載の02年1月号「まんじゅう狂乱の夏」では、「ガンバレ純ちゃん好景気まんじゅう」がバカ売れした様子を伝えている。靖国参拝を公約として挙げていた1年目の夏に、発売したメーカーも驚くような大ヒットとなった。売れた要因には、小泉前首相のカリスマ性と親しみやすさが同居するあのキャラクターもあったのではないかと個人的には思う。それに比べると新しい首相となった安倍氏は前者に比べるとどうも地味である。
しかし。
売店のおばさんに訪ねたところ、すでに安倍首相のまんじゅうを製造中であるというから驚いてしまった。
現在(9月22日)、店先に並んでいるのは「ポスト純ちゃんまんじゅう」。パッケージには総裁のイスに座った小泉氏の右側に、麻生、福田、谷垣、安倍の順でイラストが並んでいる。このまんじゅうは今年売り出されたが、参拝問題で揺れた8月にはなんと1日1500個以上が売れた日もあるという。その続編として安倍首相のまんじゅうが新しく売り出される。
製造が終わりしだいすぐにでも店先に並べることもできるが、正式に首相に任命されて新体制がスタートする26日から売り出すというのが「江戸うさぎ」(メーカー)の方針であるらしい。たしかにメーカーからすれば小泉前首相はヒット商品となった“金ヅル”である。退任にあたって最後の気遣いを見せたということだろう。
初代「純ちゃんまんじゅう」と「ポスト純ちゃん」の違う点といえば実は「ポスト」のほうに栗がトッピングされただけで実はほとんど同じものだったのだが、「晋ちゃんまんじゅう」はきなこが使われるなど、装いも新たになるという。全国40ヵ所以上で「純ちゃんまんじゅう」は売られたが、メディアに取り上げられたこともあって一番売れたのがここ靖国。果たして「再チャレンジ」は成功するのだろうか。
靖国神社には物を売る場所がいくつかある。一般の神社ならば、お守りや絵馬を置く神札所があるくらいだが、靖国にはそれ以外にも休憩所、土産物屋、遊就館の中にも土産物屋と本を置く小さいスペース、軽食レストランがある。
下世話な話でアレだが、各売店で何がいちばん売れているのかをざっと聞いて回ることにした。
まず、神門の奥にある小さな建物でお守りやおみくじ、お札、靖国の桜入りの文鎮などを売る巫女さんに直撃する。
「この売店では何がよく売れますか」とたずねると、「ここは売店ではありません…!」と冷たくピシャリと言われてしまった。(神札所と呼ぶのですね)
最も売れているのはお守り。王道である。やはりただの神社ではないと思わせるのが、他の品物と一緒に並んだCD『NIPPONのうた』(1500円)の存在だ。「一般からオリジナルを募集した」ということだが、靖国神社のホームページで各曲の歌詞を見ると、やっぱりどれもこれも“靖国調”。このCDは靖国神社と崇敬奉賛会が企画し、音楽的には靖国御用ミュージシャン・つのだ☆ひろがプロデュースしたものだ。奉賛会企画、靖国調、つのだ☆ひろという黄金パターンだが、売れ行きはイマイチであるらしい。
遊就館1Fにある本屋には、靖国礼賛本や戦争関係の読み物(もちろん日本人の“勇姿”について書かれたもの)、「日本人とは」を説く精神論本が並んでいる。店員によれば、最も売れているのは『遊就館図録』(1900円)。遊就館の展示物についての写真入りの説明、明治維新以後の戦争について書かれた一冊。
また、『遊就館図録』と共に目立つ場所にずらりと並べられたのが、小林よしのりの『靖国論』と『いわゆるA級戦犯』。まるで靖国と小林が協賛してるかのような持ち上げられぶり。若い人がどんどん買ってゆくのだという。「右」的なものに耐性がない人にはなんだかコワイ感じのする本屋かもしれないが、人が絶えずやって来て、いろんな本を手に取ってゆく。盛況なのである。(宮崎太郎)
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