日曜ミニコミ誌!/言葉巧みなアノ人達の秘密『ファッション販売』
『月刊総務』は書店でアルバイトをしていたときによく見た。専門分野が漠然としがちな「総務」の雑誌。こんな切り口があるのかと、そして全国に流通するほどのニーズがあるのだなあと、印象強かったのを覚えている。
しかし今回紹介する雑誌はもっと狭い。『ファッション販売』は、「いらっしゃいませ」を高らかに連呼するあのお姉さんたちのための雑誌だ。アパレル店売における接客のイロハ、今期のトレンド、買いあわせおすすめのヒントなどが満載。もちろん一般書店に置いてあるので広義のミニコミ誌のくくりには当てはまらないが、購買層の限定という面ではかなりミニコミ誌に近いので、とりあげてみた。
特に今号(09年2月号)は「店長力検定」と「トレンドアイテム売り込みポイント&トーク重点講座」に注目したい。
「店長力検定」は設問160項目で「店長としての強みと弱みを知る」とあり、設問はさらに20項目ずつにグループ分けされている。「売り場のコンディションづくり力検定20」「リーダーシップ力検定20」「売場の算数力検定20」などの合計で店長力を判断するというものだ。それぞれのグループごとの点数をグラフ化すると、自分がどんなタイプの店長かが分析され、タイプごとにアドバイスがある。キャラキャラと姦しい売場よろしく、アドバイスにもオトメな事が書いてあると思いきや
「今やコミュニケーション力はテクノロジー!(生産性を上げる手段です)」
「無謀な意欲論の排除!」
など、ぱっと見は意味がつかみづらい文句ではあるが、なかなかに激しい。「ノミュニケーションをとる」など、まるで管理職(店長だから管理職なのだが…)のおじさん向け並にシブい。結構シビアな業界がかいま見られるようだ。10代向けのポップなお店であれば、30代の店長に任せるわけにも行かないから店長以下みんな10代から20代前半だろう。「お疲れ様でした、店長!」「お疲れ様。…ちょっと一杯、どう? たまには」「いいっすねえ、店長と飲めるなんて嬉しいです!」などの会話が繰り広げられているのだろうか、なんだか健気なような…ん、普通か? バイトの馴れ合いの延長か?
「トレンドアイテム売り込みポイント&トーク重点講座」においては、この春の売れ筋商品について、どんなトークで購買力をかき立てるかが紹介されている。コレを読めば、あのお姉さんたちの奇々怪々なすすめ文句も理解できるかも?! 以下、「売り込みトーク例」本誌より。
「今期はシフォンやオーガンジーなどの透け感のある素材が人気です。毎シーズン登場するスポーティな印象のパーカのプルオーバーも透け感のある素材だと新鮮ですし、優しい印象になりますね」
なるほど、よくわからないカナ文字が一つ二つあるけれど、言われただけでちょっと心浮き立つ言葉ではある(本当か? と疑う人は、一度声に出して言ってみてほしい)。
ちなみに、私自身が良く聞くフレーズは次の3つ。
●これ、すごく売れてるんですよ/最後の一点なんですよ
売れているから何なのか、と突っ込んだ友人もいたが、これは「お客様、さすがトレンドに通じてらっしゃる。自然と人気のものを手に取るなんて、お目が高い!」の略。他人と違うものが欲しい人には逆効果かと思うが、不思議と言われて悪い気はしない。
●これ、今日入ってきたばかりなんですよ
「さすがお客様、新しいものに敏感ですね」の言い換え。「まだ着ている人はいませんよ、差をつけられますよ」との意も。そうか、と思いつつも、考えてみると全く同じものを着ている人に会ったことは未だかつてない。他人に興味がないから見えてないだけか。
●私も持ってるんですよ
「すっごい着やすいですよ」「肌触りがいいですよ」「何年着ても飽きません」が続く。自分の体験談を使って商品がよいことをPRすること自体は好感が持てる。でも、もしかして買わされたのでは…? と思ってしまうと、一気に悲しくなる。結果、買ってあげてしまうかも知れない。
以上は耳ダコで聞かされたのだが、もしかして何年か前の本誌に載ってたのだろうか。2001年の創刊のようだが、いや、もっと前からこの言い回しは使われていたはず。出所を知りたい。調査を進めることにする。
なお、私が一気にぐらっと来てしまったセールストークがある。それは5年前に地元で友人の披露宴に着ていく服を選んでいたときのこと。その店員さんは紫の服全体に宝石のプリントがちりばめられたワンピースを指してこう言った。
「コレを着れば、アクセサリーを付ける必要はないですよ」
即購入。セールストークには、オリジナリティが必要不可欠だと思います。(奥山)
| 固定リンク
「日曜ミニコミ誌!」カテゴリの記事
- 馬語手帖(2013.03.31)
- 日曜ミニコミ誌!/『季刊レポ』 祝!第1回「笑う本棚大賞」は『醤油鯛』(2012.12.16)
- 日曜ミニコミ誌!/活きた島情報満載「季刊リトケイ」(2012.10.14)
- 日曜ミニコミ誌!/静かな街に住みたい『AMENITY』(2011.11.20)
- 日曜ミニコミ誌!/ヨロンのびのびミニコミ「かなしゃ」(2011.10.30)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント