書店の風格/第26回 ふたば書店 平井店
出版社の営業部員であれば、絶対に営業をかけたくない書店が、一つや二つあるものと思う。
それは今どき頑固爺がハタキを持って待機しているようなヘンクツ書店でもなければ、大手版元の名を出さなければ担当者が出てきてくれないような(何故かその担当者はいつもお休みを頂戴している)「天岩戸」書店でもない。小さい頃から、もしくは街に居ついたときから通っている地元書店である。気軽に何でも買える本屋さんとして愛しているため、ヘタに親しくなれないのだ。日ごろ大真面目なフリしてお世話になっている書店員さんのレジでダイエット雑誌やマンガを買うのは、なんとなく気恥ずかしい。
今日は、奥山の地元書店「ふたば書店 平井店」について、勇気を持ってご紹介したい。
どこにでもあるような「町の本屋さん」であるが、「町の本屋さん」自体が次々とつぶれていく中で生き残っている、もはや貴重な書店と言える。江戸川区平井という町は、特に南口側に限った話ではあるが、矢鱈めっぽう本屋がない。慎ましやかに見える店内には「とにかく庶民の期待に応える」ための本がガッチリと並んでいる。
平井はどちらかというとホームタウン的な様相をしている。雰囲気を知るためには駅前の「ガスト」に立ち寄るのが一番だ。無味乾燥なはずのファミレスチェーン店が、地元の雰囲気に侵食されている。客も店員もみな知り合い同士で、接客がユルいのだ。一見オシャレに見える喫茶店も、一歩中に入ればご近所のおばちゃん、おじちゃんたちの駄弁り場で、店の雰囲気は客が作っていくものなのだなとひしひし感じる瞬間が味わえる。昔ながらの下町だ。更に特徴的なのは、少子化の時代とは思えぬほど子どもを見かける。土曜日のマクドナルドは小中学生が半数以上を占めており、休日は閑散を極める都心ビジネス街の店舗とは大違い。若々しさがぎゅうぎゅうづめなのだ。
そんなかれらが平井の本屋の客層だ。雑誌半分、書籍半分という思い切ったつくりは、地元民が長く決まった雑誌を買うことを知り尽くしているからできること。雑誌はビジネス誌10%、ファッション誌20%、コミック誌20%、実用誌30%、趣味・その他20%という構成(パーセンテージは奥山の目安)。仕事バリバリのお父さん方よりも、お子さんと主婦に目を向けた品揃えである。さらに書籍もコミックと文庫で60%程度を占め、あとは小説(ケータイ小説が豊富)、新書と、やはり肩の力を程よく抜いていて、地元民に寄り添う姿勢にたいへん高感が持てる。
そんな中で手書きのPOPを時折目にすることがある。シンプルでさらりとした文章が目に焼きつき、このPOPを書いているのは誰?? と気にはなっているのだが、急に「すみません、POPを書いているのはどの書店員さんですか?」と聞くわけにもいかない。一般人がいきなりこのようなことを言ったら、ただ変人扱いされて終わりだろう。そして紹介されてもどうするというのだ。「いや、気になったもんで…」ますます変だ。しかし版元の者だと言えば、どんな怪しい本も気兼ねなく買えるオアシスをなくしてしまうことになるし…うーん、ジレンマ。(奥山)
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