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2009年1月28日 (水)

鎌田慧の現代を斬る/第128回 オバマのチェンジとトヨタの大政奉還

 豊田グループの創始者である豊田佐吉氏の4代目の子孫が、トヨタ自動車の次期社長になることが発表された。52歳の豊田章男氏である。いまやGMの不調によって世界最大の生産台数を誇る国際企業の社長が4代目の世襲というのは異常だ。批判されつづけている麻生でさえ3代目であることを思えば分かりやすい。その古い体質に愕然とするしかない。
 彼は慶応大学でグランドホッケーに熱中していた御曹司で、84年に入社。本社の経理財務畑を歩み、44歳で取締役に就任した。その社長就任によって、生産台数が激減している会社の求心力を強めようという狙いがある。
 その裏で豊田章一郎名誉会長と奥田碩取締役が退任する。これでようやく悪名高い奥田が、トヨタから姿を消すことにはなる。奥田氏は財界や政界と距離を置く「トヨタモンロー主義」を勘ぐり捨てて、欲望のままに権力に近づきムリな拡大路線を強行した。その結果、トヨタの影響力は増し、トヨタ生産方式は日本だけではなく世界のさまざまな職場に入り込んだ。必要なときに必要な部品を必要な量だけもって来い、という横暴な「トヨタ方式」を人にまで応用し、経済財政諮問会議の委員として派遣法の改悪に尽力した。同時期に総合規制改革会議で派遣法改悪を進めたオリックスの宮内義彦氏、経団連会長でありながら違法の請負に手を染めたキヤノンの御手洗冨士夫氏の悪行とともに記憶されるべきだ。
 豊田家の社長は章一郎の実弟・達郎が奥田に交代して12年ぶりのことである。しかし「外様」の経営など、トヨタにとってしょせん傍流の出来事にしかすぎない。
 ここでトヨタ自工とトヨタ自動車の「本流」の流れを書きだしてみよう。
 1937~41年 豊田利三郎、41~50年 豊田喜一郎、67~82年 豊田英二、82~92年 豊田章一郎、92~95年 豊田達郎、09~豊田章男。

 ここに豊田自動織機やアイシン精機などの幹部を加えたら、どれだけ豊田家の人間がトヨタグループを支配してきたかが分かる。
 そもそも創業者一族が社長になれば、会社の業績が回復すると考えるアナクロニズムがひどい。企業業績の悪化が「お家の大事」となる認識は、ほとんど武家社会だ。実際、09年1月21日の『朝日新聞』によれば、「昨夏以降、業績が急速に落ち込み始めると、幹部の間では『重荷を押しつけていいのか』と大政奉還の先送りがささやかれ、渡辺社長の続投案や、ベテラン副社長の中継ぎ案が浮上」したという。若殿にご苦労をかけるのは忍びないと侍従が動いたわけだ。
 結局、「雇われ社長では原点回帰を目指した改革などおぼつかない」(『朝日新聞』09年1月21日)などの判断から章男氏の社長就任が実現した。
 米国では「チェンジ」を掲げ、米国史上初のアフリカ系アメリカ人が大統領になり、日本では「改革」を掲げて大政奉還したのは象徴的な出来事である。
 もともと豊田章男新社長は「カイゼン」方式の指導担当を歴任している。つまり彼の語る「現場に一番近い社長でありたい」も、「従業員、販売店、サプライヤーを含め勇気をもって改革に挑む」も、トヨタイズムからの「現場」であり「改革」である。従業員にとっても、関連会社にとっても地獄の原点回帰となることだろう。
 トヨタ自動車では幹部になれば、仕事がラクになるわけではない。「カイゼン」と利益増進にむけて、走りつづけることになる。では、その先に待っているのはなにか。労働者や下請けに利益還元されるわけではない。労働者の過剰な労働が減るわけでもない。ただただトヨタが大きくなるだけである。武士がお家断絶にならぬよう切腹するように、トヨタの社員たちは豊田家の永続を願って過労死をささげていく。このような封建的な会社が世界トップクラスの企業として業績を上げ、国内のさまざまな企業・団体に社員をハケンしてきた。
 なにがあっても豊田家の存続は確保する。その大原則が、この経済危機の中でも明確に貫かれた。
 すでにトヨタは北米と英国の正社員を1000人規模でリストラしようとしている。トヨタの北米11工場に約3万人、英国工場には約5000人の正社員を抱えている。海外とはいえ1950年代の労働争議以降、正社員の大量クビ切りをおこなうのは例がない。日本でも05年上半期に1万1000人いた期間従業員をゼロにすると発表している。このままでは、北米や英国だけではなく、他国や自国の正社員の削減にも手を付けることになろう。
 いまのところ正社員は解雇しない、といっているが、これまでの2兆円以上の利益をみれば当然のことである。そうでなければ、血塗られた「大政奉還」となる。株主の利益だけを優先した企業経営は、発明王・豊田佐吉が草場の陰で泣くことになる。
 豊田章男が就任して、どのような経営方針を発表するのかはわからない。しかし「雇われ社長」から「本流の社長」に実権が戻ったというのなら、社会的責任を考え労働者のクビ切りは防ぐべきだ。豊田家本流なら株主に気兼ねして短期的な利益を気にする必要などないはずだから。ところが現在にいたるまで、新社長が雇用を守るために動くとは報じられていない。
 昨年末、09年3月のトヨタの営業赤字が1500億円になると発表した。1938年3月期以来71年ぶりのことだと大々的に報じられている。しかしトヨタの内部留保は03年度の9兆5000億円から07度年の13兆9000億円へと激増した。本来なら労働者と下請に還元すべきカネを、どんどんため込んだわけだ。
 では、そのカネをどうしたのかといえば、設備投資などにどんどんつぎ込んだのである。営業赤字を受けて、今期1兆4000億円だった設備投資を1兆円以下に絞るという案がさっそくだされている。結局、世界トップの自動車生産台数を目指す企業の野心が、過剰な新工場を生み、大量の従業員を雇い入れてきたのだ。つまり奥田碩氏を筆頭とする経営者の失敗である。それをリストラや下請けの「カイゼン」で乗り切ろうというのだから恐れ入る。
 そもそもトヨタは単なる民間企業ではない。九州工場の建設などであきらかなように、自治体から減税などの好条件で迎えられ、雇用促進や地域経済の活性化を約束してきたのである。そういう社会的責任を果たすためにも、下請け潰しや労働者のクビ切りを防ぐべきだ。(談)

全文は→「2.pdf」をダウンロード 

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