靖国神社/第10回 靖国神社 靖国の商売人たち(下)
神門の下で、両脇に対をなすようにして写真屋が店を出している。各1人づつ、男性と女性が閲覧用の写真パネルと三脚を立てて客を待っている。彼らも商売人といえば商売人。
「夏の間とか、ずっとここに座ってて暑いんじゃないかと思うでしょ? でもね、ここ(神門の下)にいると涼しいんだよ。門の下は日が当たらないし、高いところに風が入ると、そこにあった冷たい空気がすっと降りてくるの。夏はここ、最高なんだよぅ」
「惣島写真館」のおばさんは言う。なんと、30年間靖国の神門の下で写真を撮り続けている。そして、反対側に位置撮る「ツカモト」の男性はなんと50年間。つまり、お互いは30年来のつきあいと言うことになる。おばさんに言わせれば、「ツカモト」の方が団体客をつかまえるのがうまく、商売上手とのこと。
ずっと以前にはこの2人の写真家も、客寄せはするな、ここから先には出るな、など神社側から制約を受けることがあった。しかし今となっては職員よりもずっと長い間この場所にいる2人が、今さらアレコレ言われることもなくなったという。おばさん曰く、「毎日適当な時間にやって来て、適当な時間に帰る」。雨が激しい日は来ない日もある。最も忙しい時期は桜が咲くころ、そして「みたま」と8月15日。
50代くらいの夫婦がやって来た。ポラロイドサイズの写真を頼まれる。900円也。靖国に来た当初から使い続けている“マミヤプレス”のファインダーを覗きながら、寄り合う夫婦に「もうちょっと右足出して」などと巧みに指示しながらシャッターを切る。
以前と比べると、一般人がカメラを持つのが当たり前になった。わざわざ写真屋に頼まなくても、「それぞれがカメラを持ってきて、そのへんでパシャパシャ撮ってゆく」という。それでも、団体客が入ったりするので悪くはない商売らしい。
「小泉さんが首相になってからだね。こんなに人が来るようになったのは。今日みたいな平日なんか、前は人もあまり来なかったのに、ここ何年かはいつでも人がいるようになった。中国とか韓国の人なんかも来るようになったね」。
それでも、最近は神門の下でずっと客を待ち続けるのも疲れてきたのだという。何せ30年も通い詰めているのだから無理はない。
ニヤリと笑みを浮かべておばさんが言う。
「あんた、ウチに養子に来ない? あたしはいろいろ喋ってばっかでウルサイけど、写真は教えるよ」。
同写真館では現在、写真家見習いを受け付け中である。
さて、景気がいいだけが商売ではない。客待ち状態も商売のうちなのかもしれないが、あまりにも客が来ないと呆然としているうちに1日が過ぎて行くらしい。
9月の終わりに靖国の参道で開かれた「地酒と酒器うつわ祭り」には、見ていて可哀想になるほど客がいなかった。地酒と酒器の以外にも陶器やちょっとした工芸品を扱う店がテントで連なっているが、人影はまばら。ノボリの「祭り」の文字が悲しい。
茶碗や箸などを売る店のバイト君(男性・20歳)は、呆然としていた。たくさんの茶碗に囲まれているが元気がない。午後4時の段階でその日の客は4人……。バイト代を貰うとき、店主から「売り上げよりバイト代のほうが高い」と舌打ちされたそうだ。
おまけに地酒のテントでは、バックパッカーと思しきひとりの外国人がベロベロに酔っぱらっていて、誰にも相手にされずなんだか悲惨な雰囲気すら漂っている。靖国での商いがどれも成功するわけではないことをこの目で知ったが、実は、靖国は神社の経営自体が近年危ぶまれてきている。
戦争に参加した世代がいなくなりつつあり、昔のように奉賛会に多額の寄付が集まるようなことはなくなってきているのだ。ここ数年で企業献金もめっきり減ってきているのが実情だ。
新たな商売のスタート。神社存続のためにはこれだろう。たとえば明治時代の靖国のように、サーカスを呼ぶ。脱・小泉時代の靖国モデルとして悪くない案だと思うが、どうだろう?(宮崎太郎)
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