アフガン終わりなき戦場/第6回 ジャーナリストは攻撃対象(2)
イスマットと連れだって、アフガニスタン最大のバザール「ダ・アフガニスタン」に向かった。カブール川に沿うように幾つもの露店や店が軒先を並べている。商品の大半は中国製。ブルカを着た女性や、髭面の男たちが品定めに目を光らせている。
バザールの小麦屋を覗くと、値段が昨年の倍近くなっていた。服や日用雑貨はあまり変わっていないが、食料品は小麦も米も果物も、全てが値上がりしていた。小麦屋のおやじに聞くと、あまり売れ行きもよくないそうだ。
イスマットはアフガン政府の開発・人材省で働いているが、彼も生活が厳しいという。
「何ていったって、干ばつだよ。アフガニスタン全土で皆が飢えている。今年君が来た時も何千人って人たちが飢え死んだ。戦争もひどいけど、飯の方が今は心配だよ」
アフガニスタンの飢餓は実際にひどい状況にある。今冬には約600万人が飢餓に直面するという報告もある。イギリスの王立統合防衛安全保障研究所はアフガニスタンの復興における最大の脅威は活発化する武装勢力の攻撃ではなく、迫り来る飢饉だと警告した。
アフガニスタンは元来食料自給率100パーセントを誇った農業国だ。しかし、2000年代からの干ばつで食料自給率は50パーセントまで落ち込んでいる。戦争が続き、輸送手段の確保もままならず、その上に折からの小麦価格高騰で輸入もままならない。世界的な小麦価格の高騰は、小麦が「投機」対象になり、バブルのように値が吊りあがっているのが原因だそうだ。外国の金持ちがマネーゲームの被害がこんな地の果ての国にまで及んでいる。
世界の「先進国」と名乗る国ではマネーゲームやら、投資だという奇怪なものが流行になっている。けれど、このアフガニスタンでは実質的なモノが意味を持つ。おそらく、このバザールの人にマネーゲームのなんたるかを説明をするのは無理だろう。けれど、人間としてどちらが崇高な生き方だろうか。汗水たらして食べ物を作ることと、パソコンの前で株価の上下に一喜一憂すること。
世界の「先」と「後」を考えるのなら、わたしにはアフガニスタンが「先」に感じられた。アフガニスタンに来ると五感が冴える。妙に物事をリアルに感じるのだ。マネーゲームなど投機など、そんなことに乱れ狂う我が国が妙にアホらしく感じる。
私は伊藤和也さんのことをふと考える。彼はアフガニスタン派遣の志望動機をこう書いている。
「子どもたちが将来、食料のことで困ることのない環境に少しでも近づけることができるよう、力になれればと考えています」
彼の頭の中にあったのはアフガニスタンの人の顔なのだろう。この干上がった大地に食物を植え、子供たちが飯を食えるような環境を作るために来た。伊藤さんとわたしでは立場も世代も違う。けれど、彼がここで何を感じ、どういう思いで生きていたかを知りたくなった。
ペシャワール会の代表中村哲医師は今もアフガニスタン東部で1人残り活動しているという。わたしは、ペシャワール会の取材をしようと思った。
イスマットにその旨を告げた。
「行くのはいいさ。だけど、車じゃなくて飛行機でね。国連機が飛んでいるよ」
わたしはパキスタンでの出来事同様、飛行機を長々と待つはめになった。(白川徹)
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