なぜ麻生太郎は漢字を読めないのか
的を得る(そんなものを得てどうする)、汚名を挽回する(同じく。そんなものを挽回してどうする)、怒り心頭に達する(どこから怒りはスターしたの?)、激を飛ばす(励ます?)、興味深々(深さは関係なくないか?)、ケンケンガクガク(2つの言葉が合体)、価値感(価値みたいな?)、不可決(可決しない?)、笑顔がこぼれる(顔が胴体からこぼれるの?)……
我ら編集者は日本語の誤用を見つけ出すのが大きな仕事である。したがって上記のようなミスがいくらでも起きうるのは知っている。「鳥肌が立つ」のように誤用が一般化してきた例もあり、目くじら立てるのはどうかとも思う……と上から目線で書いている私もこのブログで「泰山鳴動」と誤記するなど失態はいくらでもある。
しかし麻生首相の「漢字読めない」はそれとは別次元に思えてならない。と書くと「思い込んだ漢字の読み違いもいくらでもあるのでは」などの反論が考えられる。確かに。私も「強弁」をある時期まで「ごうべん」と勘違いしていた。でもそれとも違う気がする。それで怪我を「かいが」とは読まないのでは。「踏襲」を「ふしゅう」と間違うのは不自然では。
私の推論は麻生さんは自分で考えた文章を書いた経験がほとんどないから、である。一般に麻生KY問題は本も新聞もきちんと読まないからとか漫画しか読んでいないからなどと揶揄されている。でも読むか読まないかでは「強弁」のような勘違いは撲滅できない半面で「かいが」はない。漫画ばかり読んでいると「かいが」になるというのもゲーム脳の如きニセ科学のにおいがする。
やはり彼は一度も「怪我」と書いたことがないから「かいが」なのだ。いや正確にいえばそんな訳はない。事実上一度も書いたことがないに等しい状態であり続けたからと疑う。
当たり前のことをいう。日本語はひらがなとカタカナと漢字が混じる。なるほど漢字だけ取り出して「漢字検定1級」の人は「かいが」とは絶対読まないけれども「漢字検定1級」はそうはいない。にも関わらず「かいが」と読む人はごく少ない。するとひらがなとカタカナと漢字が混じった文章をひねり出した体験が、すなわち日本語で書いて表現するとの営みが際立って少なかったからと想像するのが一番わかりやすくないか。「書ければ読める」は日本語の鉄則である。魑魅魍魎と書ける人が「ちみもうりょう」と読めないはずがないように。
書いていれば間違いに気づく。気づかざるを得ない。「けがをした」と書こうとして「怪我をした」と書いた人が「怪我」を「かいが」と読み違えるはずがないので。
近年はワープロソフトの辞書が発展しているので読みが違っていたらすぐわかる。先の「強弁」にしても「ごうべん」では変換できない(参考:私の場合はATOKです)。でも麻生さんの年齢だと手書きの時代が長かったのでここで覚えられなかったのを責めるのは酷だ。ワープロソフトの汎用化は私が知る限り1980年代後半である。記者になってまもなく私はワープロ専用機を買って記事を書き始めたがデスクはそれを嫌って手書きのフォーマットにプリントアウトするよう命じた。新聞社でさえそうだったのだ。麻生さんはこの時点で40代後半。つまり当時のデスクと同年配だったわけでワープロソフトを使わないで今日に至っていてもおかしくはない。
もっともこの時点で一つのほぼ確実な推論は得られる。麻生首相は今日に至るまでパソコンで文章を書いていないということ。それはそれで問題だろうね。
話を戻す。となると麻生氏は手書き時代の人でいまだ手書きで通しているとなる。ただし上記の理由によって書いてさえいえば手書きであっても「かいが」とは読まない。だから書いていない。
一国の首相が文章を書かない……ここが問題なのだ。しかしここでも疑問が生じる。いったいに著作集を残すほど文章を残した首相がどれほどいようか。戦後では石橋湛山と中曽根康弘の各氏しか思い浮かばない。うち石橋氏はもともとジャーナリストなので中曽根さんだけとなる。麻生氏だけが責められるいわれはここにはない。
でも麻生首相のKYは群を抜いている。すると著作になる以前の、文字通り文章を書くという営み自身を著しく行っていなかったからと予測される。そのレベルは「『かいが』はねえだろう!」と批判する人未満となろう。これはかなり悲劇的な水準だ。
考えを文章にまとめる行為は論理的一貫性を養うのに適している。それを信じられないほど行っていないというのは論理的一貫性が弱いという結論とほぼ合致する。一貫性がなければ迷走する。そういうことではなかろうか。(編集長)
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コメント
「怪我」が「かいが」、「踏襲」が「ふしゅう」…。
この間違い方は、
「『けが』は怪しいの『カイ』に我の『ガ』って書くんだ!」
と覚えた人のような間違い方ですね。
「怪」を「カイ」と読むのは音読み的には正しい。
「踏」を「『ふむ』の『ふ』」と読むのは訓読み的には正しい。
漢字仮名交じりの日本語を学習中の人の間違い方としては、ある意味優等生的な間違い方です。
新出語の漢字テスト対策としても有効な覚え方でしょう。
ただそれが、
「熟語の意味はわからないけれど、
やみくもに漢字の連なりとしてそう覚えた」
のか、
「熟語の意味はわかっているけれど漢字で書く時の便利としては『音訓忠実読み』の方が楽だからそう覚えた」
のか、
それによって話はちょっと変わってくると思います。
私の推測では、麻生太郎さんは後者です。
「未曾有」が「みぞゆう」になるのも、
「頻繁」が「はんざつ」になるのも、
それで説明がつきます。
(はんざつの方は
「ざつ」が
「しげっている」→「雑然としている」というイメージから起こったケアレスミスかなと思います)。
そう考えると、麻生太郎さんは、
「書けるが正しく読めない」例なのではないかな、と。
私自身、
「書ければ読める」の信念のもと、
漢字テストではひたすら「書き」のテストを行ってきたのですが、
最近、意外にもこの「書けるが正しく読めない」生徒が結構いることを発見し、
「読み」テストを行うようにしました。
「小中でちゃんと勉強しないと
大人になって恥をかく」
ということを、
身をもって体現している首相をいただく我が国。
とてつもない、かも。
投稿: テクニシャン | 2008年12月17日 (水) 20時33分
テクニシャン様
なるほど。実はこの記事を書くに当たり最初はいわゆる湯桶・重箱読みで説明できないかと考えたのです。ご存知の通り湯桶・重箱読みは
「湯桶」は湯桶読みである
と「湯桶読みをして正しい」語と
それは湯桶読みだよ
と読み違いを指摘する場合に分かれます。この辺の教育を徹底すれば……みたいなことを書こうと思ったのですが
頻繁(はんざつ)
の説明がどうしてもつかなくて困っていました
ただテクニシャン様の説明ですと頻繁の「頻」をまったく読んでいない理由がよくわかりません
こう推測したら間違いでしょうか
「頻り」「頻る」の「シキ」とも「ヒン」とも読めなかった
↓
そのまま目が「繁」へ移った
↓
テクニシャン様の推測通りの理由で「ハンザツ」を思い浮かべた
↓
加えて「煩雑」の「煩」と「頻繁」の「頻」がそっくりだというイメージが重なった
↓
KYに至った
いかがですか?
投稿: 月刊「記録」編集長 | 2008年12月17日 (水) 22時12分
「はんざつ」の謎解き、
もう一つ考えました。
①「はんざつ」は「繁雑」とも書く。
②「ひん」と「はん」は音が似ている。
「頻繁」の「はん」の字に目が行き、
加えて「頻」の字を
「どっちだって似たようなもんだ」と
適当に「はん」と読んでしまい、
その「はん」の音の流れから
当初連想した「繁雑」に移行してしまい、
KYに至った。
…いずれにせよ、「頻」の字が
正しく刷り込まれていないという推測ですが。
麻生太郎さんの漢字読み書きレベルは、
漢検4級位というのが私の見立てです。
漢字であまり書かなかったのか、
何か熟語を使いたいときは
辞書をパラッとめくって書いて(そしてすぐ忘れて)いたのか。
いずれにせよ「雑」ですね。
投稿: テクニシャン | 2008年12月19日 (金) 00時30分
テクニシャン様
あなたのような専門家が「漢検4級位」とおっしゃるのだからそうなのでしょうね。ということは中学校卒業程度。それが日本の首相でいいのでしょうか。
ところで麻生さんに今後読んでてもらいたい漢字はありますか。私は次の3つ
唯物論……共産党のC(志位)委員長にお願いしたい。ただものろんか、ゆいものろんか、ただぶつろんか
迷走……まさか「まよそう」などと。「麻生政権迷走さえ読めないほど迷走」という記事が書ける
饒舌……煩雑の二の舞を期待。「ぜっぽう」あたり有力
投稿: 月刊「記録」編集長 | 2008年12月22日 (月) 00時17分
新型インフルエンザ関連で、
「疾病」
「不織布(マスク)」
この辺りが危ないかなぁと思います。
投稿: | 2008年12月25日 (木) 14時57分
すみません、HNを入れ忘れました。
嗚呼。
投稿: テクニシャン | 2008年12月26日 (金) 00時06分
「テクニシャン」様
二人で盛り上がっているだけですかねえ
まあいいや
あなた様のご指摘は麻生さんには難しすぎる?かも
感染爆発→かんせんぼうはつ
検疫→けんやく
搬送→せんそう
封じ込め→ほうじこめ
あたりで十分危険
「けんやく」により新型インフルエンザ患者と判明し、ただちに「せんそう」した。「かんせんぼうはつ」を「ほうじこめ」るため……
などと宣言しようものなら感染者数に反比例して支持率は限りなくゼロへ。まあ宣言は舛添さんだから大丈夫なのか
投稿: 月刊「記録」編集長 | 2008年12月26日 (金) 00時24分