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2008年12月22日 (月)

書店の風格/第25回 阿佐谷きたなら(2)

 南阿佐ヶ谷駅は丸の内線沿線、警察署も市役所も駅の目の前にあり便利な駅だ。中央線から見た風景とはまた違った趣がある。眼前に敷き詰められたチェーン店のビル群の一角、「東京靴流通センター」の隣に「書原」は佇んでいた。
 コンビニや飲食店の複合ビル内だが、専用の入り口がある書原は「シブい」の一言が似合う本屋さんだ。

 書店玄関前には右側に女性誌、左側に旅行情報誌が並んでいる。そのまま店の前を通り過ぎると靴流通センターに入っていく流れであるから、「本屋に来たわけではない」人びとも幅広く対象客にするとなると、汎用性のある「女性」と「旅」はやはり相応しいテーマである。そう考えながら自動ドアをくぐると、目の前に特大の平台があり新刊が60点ほど平積みにされている。文芸新刊のみならず、人文書、エッセイなどジャンルを問わずひしめき合っており、しかし隣同士の本に微細だがリンクのにおいがする。全体的に統一感のある構成になっているのだ。

 そして店内右奥に進むと、芸術やデザイン関連の棚があったのちに人文社会系の棚が現れる。ここが究極の「文脈棚」だ。大手の書店には良くある「日本社会」「国際社会」「ルポ」「犯罪問題」などの小分類が書かれたプレートを差し挟むことなく、「次に挿される本」は「前に挿された本」により関係の深い順に並んでいる。それでいて一定の落ち着いた雰囲気をかもし出しているのが魅力だ。

 中央には大きな文庫・新書棚が腰をすえている。本棚に工夫があり、下三段がくりぬかれている。そして下から本を積み上げ、面を見せているのだ。普通、文庫棚の下はどうしても人の目に付かず死に線になってしまうため、ストックを入れる引き出しを置いた上に棚を配置したり、単純に潰してしまったりする。一部をくりぬくという発想の豊かさに、書店人の本への愛が感じられる空間だ。

 さらに歩を進めるとコミックコーナー、文芸書コーナー、左奥には実用書、英語の参考書…と一般的な書店のジャンルはそろえてあるが、どのコーナーを見ても独特なこだわりが見られる。私は書店営業を生業としているので、趣味ではないジャンルでも一応棚に目を通すという習性が身についているが、その私が見ても「なかなか見かけない本」「普通は平積みにしない本」が見かけられたり平積みになっていたりするものだから、いちいち「このジャンルが好きな担当者がいるんだろうな」と思わされてしまう。しかし、ほとんど全てのジャンルにそう思わざるを得ないこだわりが散りばめられているということは、どういうことであろうか。これぞ全てのジャンルに通じているスーパー書店員がいる、ということではないだろうか。それはきっと「本が好き」なだけでは追いつかないものである。売る目線に立って、「私以外のお客様」に焦点を合わせなければ出来ることではない。どのコーナーも玄人な棚作りが楽しめる、素晴らしい書店である。(奥山)

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