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2008年12月15日 (月)

書店の風格/第24回 阿佐ヶ谷きたなら(1)

 阿佐ヶ谷駅南口を出ると、果てしなく続いていく商店街がある。そこをぶらぶらするよりも手前、細長いビルの一角に「書楽」はある。間口が狭いので、どこにでもある街の本屋と見くびるかもしれない。しかし中に入ってみてほしい、予想外の広さに驚くから。

 入口付近は雑誌のラックが多数あり、「庶民の本屋」の雰囲気がじんわりとした優しさをもって出迎えてくれる。ホッとしながら一間強の自動ドアをくぐりぬけ、目の前に拡がっている新刊・話題書の並んだ平台を見つめたのち、ふと右側の棚に意識を遣ってみると、そこにこだわりの息づかいを感じることが出来るだろう。東京や近郊についての情報本を扱ったその棚は、実用書が溢れているとは思えないほど上品な佇まいをしている。落ち着いたオトナの多く住まう阿佐ヶ谷という街のイメージどおり、レジャー感を過剰に打ち出すことなく、例えば散歩の本であるとか、歴史的人物のゆかりの地を訪ねる本であるとか、文化を感じさせるラインナップなのである。そんなこだわりの棚を見ながら店内奥へ進んでいくと、入口も奥行きも狭いこの本屋が、実はかなりヨコ長であることに気がつくだろう。「駅前の本屋さん」と一口に言うには広すぎるのが、この「書楽」なのである。こんなところに良質な本屋さんが、と、自分一人で穴場を発見したときのあのお得感が心に訪れるのだ。
 じゅうぶんにお得感を味わったら、好みの本棚を探していこう。人文書はいわゆる基本書が当然のごとくそろっているし、学習参考書、語学書、試験・資格の本も豊富だ。どれも偏りなく揃っているのが、書店としての誠実さ・緻密さを思わせて、大変好感が持てる。
 そして何よりも魅力的なのが、店長さんの動きである。ひとめ見ればこの人が店長と、雰囲気で分かってしまう背筋のピンと張った男性は、スリップの束をめくりながら本棚をなめるように動く。後ろ姿から熱心さが否応なしに伝わってくるその様は、迫力があるとすらいえよう。職人の仕事を垣間見るすがすがしさを味わい、同時にある店の店長さんの話を思い出した。

 POSシステムが発達して本の発注も機械におまかせになる書店が増えている。しかしそれでは「機械の作る店」になってしまう。本屋というのは単に印刷物を売る場ではない。「無数の思考の息づかい」を売る場である以上、そこには店主の意向、遊び、ためらい、挑戦などが反映されるべきであり(どんなに押しつけがましいと思われようが)、お客さまにもそのメッセージを受け取ることを、楽しいと思っていただきたいのだ。そのためには、売上の状況を毎日自分の目で見る。どんなに膨大であっても、売れた本のリストを見る。そうすると、機械には見えない売れ筋本の流れ、ジャンルごとのテーマリンク、などが浮かび上がってくる。そこに自分なりのエッセンスを加えたり、「これから売れるであろうもの」を推理したりしながら注文を得る、棚を作る。これが書店人のあり方だと。

 これぞ「本売りの職人」としての書店人のあり方なのであろう、と思った。そしてスリップと棚構成を頼りに、自分の感覚で書店そのものを創り上げていく厳しい方法を選ぶ書店人を、私は支持したい。
 「書楽」の本棚も、書店人の思いがたくさん詰まっているに違いない。集中してスリップをめくっている姿を見て、そう思った。すると、いっそう本棚が、輝いてみえてきた。(奥山)

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