アフガン終わりなき戦場/第5回 ジャーナリストは攻撃対象(1)
2008年10月、わたしは再度アフガニスタン取材に向かった。約半年ぶりのアフガニスタン取材である。
アフガニスタンに入るにはドバイやバンコクを経由する方法もあるが、わたしは毎回パキスタンのイスラマバードを経由している。同じイスラム教国であり、アフガンと密接な関係にあるパキスタンで体を慣らしておきたいのだ。東京からイスラマバードへは、パキスタン航空で北京を経由して14時間だ。
今回はビザの不手際があり、イスラマバードで強制送還されそうになった。けれど現地日本大使館の奮戦もあり、何とかパキスタンを無事に出国できた。大使館なんて、といつも小ばかにしていたがこういう時は頼りになるものだ。パキスタン政府内務省にとりあって、特別滞在許可を発行してくれた。無頼なわたしもさすがに今回は頭が下がった。イスラマバードの滞在は3日の予定であったが、滞在許可が出るまで約丸1日、その後2日間を市内のホテルで過ごした。空港のベンチで丸一日、放心状態で過ごしていたわたしを不憫に感じたのか、パキスタン航空も滞在許可発給後は上等なホテルを用意してくれた。
不運と幸運が重なったが、いきなり出鼻をくじかれてしまった。ホテルに入って一息入れたところで、自分が誕生日を迎えていたことを思い出した。出鼻どころか、顔ごと蹴飛ばされた気分だった。わたしは24歳になっていた。
10月23日、わたしはカブールに入った。空港には友人のイスマッドが迎えに来てくれていた。握手をし、抱擁を交わす。アフガニスタン特有の砂っぽい、それでいて情感あふれる匂いが彼の懐から届いた。わたしはアフガニスタンに戻ってきたのだ。
今年の8月にNGO団体ペシャワール会の伊藤和也さんが殺害され、日本ではアフガニスタンの治安悪化が印象付けられた。事実、治安の悪化はつるべ落としの様に急激に悪化しており、外国人ジャーナリストが取材をするのは難しくなりつつある。
ホテルに着き、荷物を下ろして現地の新聞やテレビをイスマットに訳してもらう。驚いたことに、以前私が取材していた難民キャンプでカナダ人の女性ジャーナリストが誘拐されていた。私の到着前日のことだ。もう以前のように、難民キャンプに何日も通うような取材はできなくなった。
イスマットは「ちょっと聞いてくれ」と真剣な顔で、わたしに言っておきたいことがあるという。
「まずは、君がアフガニスタンに戻ってきてくれってうれしいよ、トオル。だけど、ここは君が着た数か月前のアフガニスタンとは全く違うんだ。以前、君はタクシーに1人で乗っていたけど、今回は許さない。絶対に僕か、僕が紹介した人物と一緒に乗ってくれ。街を1人で歩くのもだめだ。それと、難民キャンプにも行ってはいけない。今はジャーナリストが攻撃対象になっているんだ」
「どうしてジャーナリストが攻撃対象になるんだい? 僕たちはアメリカの側にいるわけじゃない。必要なら批判することだってある。そりゃあ、アメリカよりの連中もいるけど、フリーでそんな奴まずいないぜ」
イスマットはやれやれ、と言った顔をする。
「君はわかっていないよ。いいかい、僕たちアフガニスタン人はジャーナリストが嫌いなんだ。アフガニスタンではBBCのパシュトゥー語のラジオ放送がある。あれでみんな外国人がぼくたちアフガン人をどういう風に見ているか知っているんだ。少しも真実が伝わっていない。聞くのはタリバンが何人死んだか、とかそんな話ばかり。でも、殺されているのはタリバンじゃなくて、民間人だ。もう、誰もジャーナリストを信用していないんだよ」
「でも、君は僕がそんないい加減なジャーナリストじゃない、っていうことはよく知っているだろう」
私はすこし語気を荒げた。
「知っているよ。だから、言っているんだ。僕は君の親友のつもりなんだぜ。いいかい。キャンプや郊外の人たちが得られる情報はラジオか、人づての話だけだ。ちゃんとした取材をしているジャーナリストがいる、なんてことは誰も知らないんだよ。彼らにとっては君も『外国人ジャーナリスト』と、しか見られないんだよ」
私は取材範囲を狭めることが嫌だったが、イスマットの言っていることは理解できる。彼のこともあり、私は取材範囲を大幅に狭めることにした。事実、彼と一緒に街中を歩くと、背後にピリピリとしたものを感じた。人の目つきが明らかに以前とは違う。(白川徹)
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