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2008年11月11日 (火)

杉並一家放火殺人事件の現場を歩く

Suginami  1986年11月8日午前4時過ぎ、伊藤正之介さんの自宅にもなっていた3階建てマンションが炎に包まれた。火は2時間後に消し止められたものの大人3人、幼児1人、計4人の絞殺死体が見つかる。殺されていたのは、出火したビルの所有者であり建設会社社長でもある69歳の男性と内縁の妻、次男の27歳の妻と2歳の娘だった。自宅の車が消えており、行方が分からないことから警察はすぐに次男を重要参考人として指名手配した。
「火事に気づかなかったんですよ。近所が騒がしくなって、外に出てみたら火事でね。うちの隣も伊藤さんの事務所と資材置き場になっていたから、こちらに放火されたら危なかったなあと思います」
 近所の女性は、当時の事件についてそう語ってくれた。
 自分の妻と娘とと父親、さらにその内縁の妻を絞殺し、灯油を部屋にばらまいて放火するという残虐な犯行にメディアは色めきたった。しかも犯人と目された次男は1500万円もの金を銀行から引き出し逃亡していた。すでに事件当日の夕刊では、伊藤さんの長男が事件の十数年前に交通事故で亡くなり、次男も半年ほど前に車を運転中に飛び出した子どもをよけようとして十数メートルの土手を転落、その事故の影響で記憶喪失に陥ったこと報じている。
 次男を後継者として期待をかけていた父親は、この交通事故に大きなショックを受けたようだ。その様子について、1986年11月8日の朝日新聞夕刊は次のように報じた。「伊藤さんは『あいつはもう元に戻らないかもしれない』『おかしくなってしまった』など古参の従業員にこぼしながら涙ぐむこともあったという。
 特に最近は『頭が痛い』と訴えることが多く、話しかけても聞いているのかいないのかわからず、ほとんど仕事にならない状態。いらだった伊藤さんが『しっかりしろ』と声を荒げることもあったという」

 派手な逃亡劇だったが、翌日の午前10時過ぎ仙台のインターチェンジで検問中の警官に彼はあっさりと捕まり、4人の殺しを自供する。子ども教育問題で妻とケンカし、カッとなって殺害。さらに1人残る子どもがふびんだと思い絞め殺した。その後、父親に自首について相談したが相手にされなかったので父親とその内縁の妻も殺した。当初、次男は犯行の動機について、このように語っていたという。4人を殺すのは貧弱な理由だが、つじつまが合わないわけではないというとこか。
 しかし起訴の段階で犯行動機は一変する。
 最初に妻と教育問題でもめていたのは事実だが、殺人のきっかけは「この子にはあなたの血なんか入っていない。別の男の子ども」という妻の一言だった。これなら2歳の我が子を絞め殺した理由もわかる。
 さらに犯行翌日の夜、父親に殺人を打ち上けたが「お前はもともとオレの子ではない。どうなろうと知ったことではない」と言われ逆上して殺害。さらに父親の子どもではないことを隠されと思い、内縁の妻も殺したという。その4日後に4人の遺体を1階の寝室に運び灯油をまいて火を付けたとされる。
 衝撃的な話だが、にわかには信じられない話でもある。しかし、このような話を作る理由がないのだ。この話によって被告は死刑の求刑から無期懲役を勝ち取ったが、供述を裁判所に提出したのは、当初の動機では弱いと当人を追求した検察である。弁護士サイドからの訴えではない。わざわざ情状酌量になるような話を、検察が作り上げるはずもない。
 ならば当人が「作った」のかというと、それも信じがたい。本気で減刑を狙うなら交通事故の後遺症があったのだから、弁護士の主張する心神喪失状態を演じればよかったはずだ。しかし彼は犯行を細部までしっかり証言した。しかも1565万円もの金を引き出したものの、火を付けた日の夕方にはほぼ全額を山林に投げ捨てている。本気で逃げる気なら逃走資金となる金を手放すわけがない。逃走というより、死に場所を探していたという方がピッタリくる行動だ。

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コメント

この事件を振り返る方が居らしたなんて・・・

事件後、何も知らずに次男と一緒に三日間事務所で仕事をしていた者です。

車の事故での記憶喪失は、演技でした。
しかし、原因となった嫁の浮気は事実ですが。
玲ちゃんが次男の本当の子供かどうかはわからないですが。
裁判の証言台に、浮気相手も立ちました
嫁の母親が、娘に避妊具を持たせていたそうです。
こんな現実を、次から次へと聞かされる次男がかわいそうで仕方ありませんでした。
事件後、嫁の家族は次男の実家から金目の物を一切合切持ち去りました。
哀しい人たちです。
次男はまだ服役しているのでしょうか・・・

投稿: パチ | 2012年3月29日 (木) 09時53分

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