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2008年11月28日 (金)

鎌田慧の現代を斬る/第126回 ヤクザな男たちの暴走が日本を滅ぼす(トヨタ奥田/空幕長田母神)

 米国3大自動車メーカーの不調のなか、250億ドルにものぼる緊急融資をおこなう救済法案が、米議会で成立するかが注目を集めている。ビッグ3の経営不振の直接的原因は、相も変わらず燃費効率の悪い大型車に依存し、近年のガソリンの高騰によって売れなくなっただめだ。もちろん投資銀行のリーマン・ブラザーズ破綻など、米国発の金融不安が大きく影響している。しかし不振の根幹には製造業としての経営努力と販売戦略の失敗がある。

 そのため政府援助によって問題が解決されるわけではない。GMの社長は、救済法案について自動車メーカーではなく米国経済の援助であるとを強調した。たしかにビック3の一角が崩れて事業規模が半減すると、250万人の労働者が職を失うとの推計もある。労働問題としては非常に深刻だ。かつてGMは米国のプライドだった。それが倒産寸前の状況にあるのは、米国経済ばかりか米国の威光の落日を象徴している。

 一方、3大メーカーの衰退に反比例し、日本や韓国の自動車メーカーが米国市場でのシェアを高めてきた経緯を忘れてはならない。実際、トヨタは84年12月以降、北米に7つの車両組み立て工場を建設している。84年12月にはカリフォルニア州に「NUMMI」、88年5月には「ケンタッキー工場」、同年11月には「カナダ第1工場」、99年2月にインディアナ工場、04年8月メキシコ工場、06年11月テキサス工場、さらに今月にはカナダの第2工場が稼働の予定になっている。当初の計画では10年までに200万台以上の生産能力をもつ予定だった。
 金融不安以降、こうした勢いにかげりは見えた。トヨタはこれらの工場を休止あっせて減産し、来年3月期の連結決算では、営業利益で前期比74%減の6000億円となっている。新聞では1兆円利益が下がると盛んに喧伝している。しかし米国メーカーの不振にツケ入り大もうけしてきた時期と比べて収益が下がっているだけ。実際には6000億円もの営業利益を確保している。
 この「赤字宣伝」を隠れミノに、トヨタは下請け企業へのさらなる原価削減と、雪崩を打ったかのような非正規雇用者の削減にむかっている。愛知県内12の工場の期間工や派遣社員9000人を3000人に減らし、九州トヨタでは800人の契約社員のクビを切るという。

 2000年11月16日の『朝日新聞』の登場した奥田碩会長(当時)は、「万策尽きるまで雇用は守る。それが奥田さんの信念と聞いています。でも、トヨタはうまくいってるから言えるという気もしますが」との記者の質問に次のように答えている。
 「『強者の論理だ』と考える人は相当いるだろうと思いながら、書いたり話をしたりしています。でも、人間は尊重しなければならないし、長期雇用でやっていくのが一番いいと考えている。ある職場で人が余ったら、何か別の仕事を考える。それは多角化とは全然違う」
 この発言は期間工や派遣労働者を「人間」の頭数に入れていない。好況のときもさして正社員を増やさず、非正規雇用者を増やしておいて、いったん市場が冷えてくると捨て駒として工場の外に放りだす。これが奥田会長が誇らしげに語った「長期雇用」である。彼のいう「人が余ったら」の「人」に、期間工や派遣労働者は含まれていない。つまり奥田にとって、本工以外の労働者など「人」ですらないということだ。だから景気が悪化したら期間工や派遣労働者のクビを切ることが分かっていても、胸を張って「万策尽きるまで雇用は守る」などうそぶいているのだ。
「本当にどうにもならなくなったならば、僕もやめるというふうに。自分は生き残り、従業員を削るということはあり得ない話だと思いますね」と彼は朝日の記者に語っていたのだが、これは悪い冗談だった。
 いまやゼネラル・モーターズを抜き、自動車メーカーとして世界のトップ企業になったにもかかわらず、トヨタはGMとは比べものにならないほどひどい環境で労働者や下請けを働かせている。給与体系もビッグ3の方が上で、退職者への年金や医療保険も米国企業の方が手厚かった。トヨタにとって労働者の保護など「カイゼン」の対象でしかない。関連企業を含めると1万人以上もの労働者を切り捨てているのに企業責任さえ感じていない。それは企業が儲かれば、労働者は死んでもいいという思想である。

 こうしたトヨタの独善性を如実にあらわしたのが、11月12日に「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」での奥田発言である。
「あれだけ厚労省がたたかれるのは、ちょっと異常な話。正直言って、私はマスコミに対して報復でもしてやろうかと(思う)。スポンサー引くとか」(『朝日新聞』08年11月13日)
 この発言には、気に入らない報道は許さないというトヨタの思想が煮詰まっている。実際、過去に圧力をかけつづけてきたからこそ、あれだけ非人間的な労働環境で働かせながら、トヨタ批判はマスコミにのぼらなかったのである。その効果を十分に知っているからこそ、自分が関係するものへの批判が、気に入らなければマスコミに報復して抑えようとする。
 また情けないことに、メディアもその脅しに屈している。テレビ朝日の和田政夫社長は「(厚労行政は)国民の生活に深くかかわっている。メディアとしては、きっちり批判していかなくてはいけない。そのためにも、批判に走りがちにならないように、不断のチェックが必要」(『読売新聞』08年11月20日)と話し、奥田発言そのものについても「報復するというのは刺激的、穏当を欠く」(同上)と腰の引けたいい回しに終始した。さらに日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日相談役)にいたっては、「出演者の中に感情だけに訴える過激な発言もある。テレビの影響力の大きさから言えばある種の節度が必要かなという気もした」(同上)と、放送規制によってトヨタに迎合しようとしている。
 奥田氏は先述した懇談会で「新聞もそうだけど、特にテレビがですね、朝から晩まで、名前言うとまずいから言わないけど、2、3人のやつが出てきて、年金の話とか厚労省に関する問題についてわんわんやっている」とも語っている。誰を指すのかわからないが、テレビのコメンテーターを「やつ」呼ばわりしているのである。「報復」という暴力的な言葉を使って、言論弾圧を示唆している。経済的な脅しにたいして、きちんとした反撃ができないのは、すでに報道機関として失格だ。
 厚労省に批判が巻き起こっているのは、年金問題などであまりにも対応がオソマツだからだ。情報を公表しない、調査の不備も次々とあきらかになるなどなど。トヨタのリコールでは、関係する下請け労働者を徹底的に追いつめ「カイゼン」させるのに、政府機関なら批判した方が悪いという。この行動形態(ビヘビア)はフィリピンで悪名高きマルコス政権に取り入り、政商として名を挙げて本社に復帰した、奥田の「経済手腕」を思い起こさせる。
 もう1つ許せないのは、「ああいう番組のテレビに出さないですよ。特に大企業は。皆さんテレビを見て分かる通り、ああいう番組に出てくるスポンサーは大きな会社じゃない。いわゆる地方の中小。流れとしてはそういうのがある」ときわめて差別的な発言をしていることだ。
 中小企業をバカにしながら、下請け経営者には、自殺者がでるほどコスト削減を押しつけている。これは期間工や派遣労働者を「人」として勘定しない思想そのものだ。このような人物がついさきほどまで経団連の会長におさまっていたのだから、大企業優先の政策が通り、中小企業や労働者が自殺するのも当然だ。
 言論の自由など気にすることなく、カネに任せて言論封じる人物がずっと経団連のトップに居座り、いまも首相官邸に出入りして意見をいいつづけている。その恐ろしさを、今回の奥田発言は改めて白日の下にさらしたといえる。
 それでいて奥田氏は今回めでたく「旭日大綬章」を受賞した。かつて勲章について質問され、「僕はもともと大嫌いだけどね、そういうの」(『朝日新聞』2000年11月16日)と語っていたが、自分にくるとなるとホイホイもらいに出かけて行くところに、いい加減さがあらわれている。同時受賞したのが、読売新聞の渡辺恒雄主筆だったのも象徴的だ。財界から政治を握ろうとした人物とメディアから政治を操ろうとした人物の同時受賞など、これまで見られなかった取り合わせである。(談)

→続きはPDFで「0811.pdf」をダウンロード 

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