ロシアの横暴/第3回 政治家殺害と塩を買い占める民衆(1)
ロシアはどこに行くのだろう?
ずっと昔から言われてきたことばだが未だに行く先がわからない。グルジア戦争は収まったのか、膠着状態なのか。NATOだ、MD配備だと騒々しかったロシア周辺が最近は水を打ったように静かになってしまった。
9月末、モスクワでチェチェン選出の国会議員が何者かに殺された。日本の新聞では少しだけ触れてあるが、ほとんど「他に大した記事がなかったから」載せたような扱いだった。この国会議員はカディロフ政権と対立していると言われている、と結んであって、それ以上の情報は何もない。
2年前にジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤが何者かに殺されたときプーチン大統領(現首相)は取るに足りないこと、と言ってのけた。
しかし、今回の殺人はプーチンにとっては取るに足りないことではないはずだ。
チェチェン選出の国会議員、ルスラン・ヤマダエフは元独立派で後にロシア側に寝返り、第二次チェチェン戦争が始まったとき、ロシア軍がやすやすとチェチェン入城するのに貢献したと言われているスリム・ヤマダエフ司令官の兄弟である。
チェチェン制圧の功労者一族だからやすやすと国会議員になったわけだが、その功労者が殺されたというのに、問題にもならないのが現在のロシアである。
司令官はその功績を買われてチェチェンを威圧するべく編成されたロシア軍旅団「ヴォストク」の親玉となった。当然ロシア傀儡政権のカディロフ大統領の忠実な下僕であるはずだ。ところがこの殺人の犯人はおそらくカディロフの手下であると言われている。プーチンロシアの下僕と手下の争いということになる。でもこれはプーチンにとっては好都合である。なぜかというと2つの勢力が結束しているよりも、ときどきは殺し合い程度の対立は起こしてくれた方が、ロシアの駐留を正当化できるからだ。それに下僕と手下が結束しているといつロシアに反旗を翻すかわかったものではない。
国会議員が殺害された、というのに世界はアメリカ発の経済危機にかかりきりで、だれも関心を払わない。いわゆる後進国の国会議員が殺されても日本のマスコミに取り上げられることはほとんどない。他に大きなニュースがなければ1行ぐらいは載る可能性もあることはあるが、ほとんど無視される。
今のロシアはサミット(先進国首脳会議)のメンバーであり、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。そこで起きた国会議員殺害という大事件のはずが今や後進国の出来事並に取るに足りないこととなってしまったようだ。
もっとも、チェチェン選出、つまり選挙で選ばれた国会議員といったって、その選挙が不正疑惑だらけなのは今や「常識」である。
ロシアの選挙は候補者が立候補して選挙戦という先進国で一般的な方法はとっていない。国政選挙か地方選挙か、あるいは選挙区のレベルによって多少ちがうが、表向きだけ立候補を受け付け、対立候補にはなんやかやとナンクセをつけて書類不備にし、立候補させない。国際的に目立つような大きな選挙なら1人2人の対立候補は残しておいて帳尻を合わせておくのが普通だ。チェチェンなどそれこそ取るに足りない選挙区などどうでもよい。
対立候補がいなければ信任投票となる。信任投票の方法は日本の最高裁裁判官国民審査と同じで不信任の場合のみ記入する。しかも信任不信任は守秘義務とやら、カーテンで仕切られた投票記載所に入って記入しなければならない。すると、居合わせた全員に「あ、あいつは不信任投票をしている」とわかるようになっている。
もっともこの話もけっこういい加減で、実際には投票に行く者などほとんどおらず、ごくまれに候補者の血縁関係者などが投票に行くかもしれない程度のもので、当然「信任」、だから何もせずに投票用紙を投票箱に入れて投票終了、ひょっとしてカーテンで仕切られた記載所キャビネットははじめから設置されていないかもしれない、というのがより信頼できる裏情報である。選挙後に公表される信任率ほぼ100%―場所によっていくらか数値は違うとしてもーはこのような投票の結果であって、データそのものは正しい。選挙そのものがほとんど捏造というわけだ。
そんな方法で選出された国会議員が殺されたところでだれも関心を払わないのは当然といえば当然である。
要するに、アメリカ発の経済危機が世界中を吹き荒れているから、ロシアの国会議員の1人や2人が死んでも殺されても、関わっているヒマはないというわけだ。(川上なつ)
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