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2008年9月29日 (月)

ロシアの横暴/第2回 南オセチア独立に隠されたロシアの野望(2)

364  さて、ここで今回の紛争の舞台となったカフカスについて少し説明しておこう。カフカスはカフカス山脈の北側に位置する地域の呼び名である。チェチェンをはじめ、ダゲスタンやイングーシなど小国がひしめいている。山の南側に位置するグルジア・アゼルバイジャン・アルメニアをザカフカジエ地方(カフカスのうしろにある場所)と呼んでいるが、両地域をひとまとめにして「カフカス地方」とすることが多いようだ。

 ザカフカジエのアルメニアにはノアの方舟で有名なアララット山がある。大洪水を生き延びるのに神の予言を守って方舟に乗りこんだ7人はアララット山に漂着し、この地から世界に散って行ったとされている。神の裁き、ノアの洪水で壊滅した人類を再建する出発点になったというわけだ。一説によればアララット山から北へ散ったのが白色人種、東へ散ったのが黄色人種、南へ散ったのが黒色人種だそうである。大洪水をもたらした大雨があがった時、空いっぱいに大きな虹がかかった。その虹は人類に「今後は助け合って生きよ」と告げたのだという。生活協同組合のシンボルは虹で、「助け合い」が出発点になっている。ノアの洪水伝説に由来したものだ。カフカス地方で助け合いや協調を趣旨とするコミュニティに「虹=ラードゥガ」と命名することが多いのもこの伝説に基づいているようだ。

 こうした聖書伝説を裏付けるようにカフカス地方には人類が生きるのに必要なすべての農作物が生育できる土地であると言われている。さらに大洪水以前は草食だった人類が洪水以降には肉食を始めたという説のとおり、アララット山に羊が立っている絵がアルメニア産のワインやブランデーのラベルにある。カフカス地方では羊飼いは聖職である、という言い伝えもこのことを物語っている。

 ところでカフカスは「ロシアのアキレス腱」と言われているが、実に的を得たたとえである。ギリシャ神話に登場する不死身の英雄アキレスはトロイア戦争のとき、唯一の弱点である足首の腱(アキレス腱)をアポロンに射られて死んだという。
原油高の波に乗って強いロシアを印象づけてはいるが、だまし討ちや買収といった裏の手を使わなければ支配できないカフカス、実は大国ロシアの、さわられたくない弱みなのである。弱みを気づかれたくないから強引で横暴になる。ロシアは今、何かのはずみでアキレス腱を撃たれて破滅するかも知れない、危険な道を走り抜けようとしている。(川上なつ)

※写真は、前回とは別の角度から撮影したカフカスの山々

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