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2008年9月13日 (土)

書店の風格/第19回 気流舎 売らない本もある

 下北沢駅なら断然北口から降りたい、と思う。理由は数え切れない。真ん中にのびてる道を選んで下っていけばベーカリー「アンゼリカ」がある。ここのみそパンは一度食べたら病みつきになること必須、駅から猛ダッシュして行きたいお店ナンバーワンだ(個人的には)。さらに古着屋、安くてかわいいランジェリーショップ、ヘンなものを集めた雑貨屋などが一つの通りに凝縮されて存在する。若々しい雰囲気を横目で楽しみながらさらに歩いて大きめのクリーニングチェーン店を抜けたところで、少々落ち着いた街並みになってくる。コンビニ、マンション、カフェ、食堂…そのうち一つの角を曲がると、こじんまりとした木造のたてものがあらわれる。塗料を塗っていない、裸の木の色をした建物だ。それが「対抗文化専門古書 気流舎」。コーヒーの飲める古本屋、いわゆるブックカフェだ。

 「いわゆるブックカフェだ。」と書いてしまったが、どうも違う気がする。えっなんで、本を読みながらお茶が飲める場所でしょ、ブックカフェ以外のなにものでもないじゃんなんて無情にツッコミを入れるあなたには一度足を運ぶことをおすすめする。行ってみればわかる、多分。

 中はおよそ4坪程度で、こちらも裸の木の匂いがする美しいつくりをしている。壁2面に本棚がある。本棚の下から飛び出すように板がしつらえられているのは、そこに座って本を読むためだ。さらに店の中央にもテーブルがある。本棚の一画に陣取って読みふけるもよし、テーブルでくつろぐもよし。店主も同じテーブルの隅に座ってパソコンをパタパタやっているので緊張するかもしれないが、真ん中にそびえる大黒柱が緩衝材になってくれる。チャイがとびきりおいしいので、注文すれば穏やかに返事をして作ってくれる。

 さて肝心の品揃えのほうだが、「対抗文化専門古書」ということなのでどんなトンガリかと思いきや、本が好き、悩みの多い青春期を過ごしてきた、少し社会系、という人たちに幅広く支持される本が並んでいる。そしてそんな本の合間に、コアな本があったりするのだ。「基本は押さえている」といったところだろうか。新刊書店の人文棚に基本書があるように、古本屋にも基本書があるのですよ、と言われたような気がした。「ちょっと本読みに来た」人も、「なかなか濃い趣味」の人も、等しく満足するだろう棚。そんなに冊数はないはずなのに奥行きを感じる本棚構成である。
 さらに驚くのが、「この本いいな、買いたいな」と思って値札を見ようとすると「非売品」と書いてある。えっ? と思って他の本を見ると、ちゃんと値段が書いてある。蔵書と商品にする本が分けられているのだ。しかしどちらも自由に読むことができる。さらにカフェスペースはあるが注文しなくてもいっこうにかまわないスタイルだ。ということは、図書館みたいに好きな本を好きなだけ読んで、まったりして、すうっと帰ってしまう、なんて適当なことが可能なのだ。
 まるで他人様の書斎にお邪魔して、「ちょっと借りるよ」と言ってその場で読んでいるような気持ちにさせられる。しかもロフトがあって、誰でも上がって読めるようになっている。寝っ転がって読んでもいいのだ! そしてすごく居心地がいい。それは店主の見事な気配りに起因するものとみた。つかず離れずの距離感が、とても心地いいのだ。お話をしようと話しかければおだやかに返事をしてくれるし、こちらが読書に集中するとそっとしておいてくれる。こんなにこだわりのこもった書店なのに、お客さんのためという基本姿勢が一貫して保たれている。

 気流舎にあるのは普通の本だけではない。ミニコミな雑誌もある。各種チラシやフライヤーも置いてある。夜にはイベント会場として使うこともできる(そして夜にはバーになる!)。「ブックカフェ」というくくりには収まらない、「誰かの家」的な雰囲気が心地よさを誘う、そんな空間だ。(奥山)

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