トヨタに夫を殺されて(3)
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もともと生産工程に物理的・時間的な余裕があれば、不良品の修理などそれほど大した問題にならない。外しておいて、あとで処理することもできるからだ。しかし生産工程の1秒のムダさえ削ってきたトヨタではイレギュラーな問題の解決がとても大変になる。それゆえ健一さんは、怒鳴られながら各部署を走り回らなければならなかった。
しかも業務はこれだけではない。会社が業務と認めていない「自主活動」が山ほどあったからだ。(大畑)
職場カイゼンの目標に取り組む「QC(クオリティーコントロール)サークル」、業務の改善策などを個人で提出する「創意くふう提案」、健一さんの職制だったEX(班長)の会、さらに部下と神社のお参りまで行かされる交通安全活動。健一さんはそれらのリーダーなどを任されていたうえに、トヨタ自動車労働組合の職場委員まで押しつけられていた。
この「自主活動」に奪われる時間が半端ではない。
通勤中の運転で危ないと感じたことを従業員は毎日「交通ヒヤリ」という書類に書き込む。その記述をまとめるのは交通安全リーダーだった健一さんの仕事だった。さらに交通安全の定期的なミーティングも実施しなければならない。創意くふう提案は毎月書く必要があり、品質管理の意識を高めるためのグループ活動「QCサークル活動」の発表のために睡眠時間を割いて自宅で書類を作成しなければならないこともあった。このQCサークル活動がどれほど面倒なものであったかは、健一さんが関連書籍を30冊近く購入していたことからも分かる。会社の製品の品質向上を目指して本まで買って勉強し、ほぼ強制的に書類の提出が科されるのに、トヨタは従業員の自主活動だと言い張ってきた。人件費を抑えるためである。
また本来なら労働者を守るはずの労働組合まで労働強化に加担した。組合の会議は昼休みに開かれ、健一さんから貴重な休息時間と食事タイムを奪っていった。組合研修が土日に開かれれば、それも強制的に出席させられた。時に年休まで取らされてである。
こうした諸々の業務が積み重なり、健一さんが亡くなる直前の1ヵ月間の時間外労働は155時間25分にもなったという。
博子さんは亡くなる1週間前の三層会のことを強く記憶にとどめている。
「夫の帰りを起きて待っていたんです。会社に抗議の電話をしようと思って」
その日、健一さんは早番で6時25分から16時10分まで働いていた。そのあとに開かれたのが、CL(チーフリーダー)とGL(グループリーダー)とEX(エキスパート)三層の会議だった。
「朝4時に起きて、めいっぱい働いてから会議に出席。それからアルコールは一滴も飲めないし、カラオケも好きじゃないのにウーロン茶でお付き合いして。会が終わったのが午前1時で、反対方向の上司を2人送って自宅に戻ってきたのが3時半でした」
誰の目にも健一さんが過労気味だとはわかっていた。彼の上司は年賀状に「今年は早く帰れるように頑張ります」と書いていたほどだ。新年会では友人から冗談交じりではあるが、「そんなに働いたら死ぬぞ」と言われたという。そんな状態の部下を上司が運転手代わりに使ったのである。約24時間動き続けているのに。推測だが、酒を飲まない健一さんは運転手として使いやすかったのだろう。
夫の健康が心配でならなかった博子さんが、会社に抗議の電話をしようと思ったのもうなづける。しかし結局、博子さんは電話をかけなかった。
「男の人は奥さんに電話されたくないでしょ。そりゃ、そうですよね。だからとどまったんですが、こんなことになるならちょっとね……」
そう言って、博子さんは寂しそうに笑った。
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コメント
トヨタ3 の続き 早く読みたいです
投稿: 沙耶 | 2008年9月 5日 (金) 09時57分
こんな状態なんですか。 トヨタは。
カリフォルニアに住んでるんですけど、ずーっとトヨタに乗ってます。 私も含めて、友人もトヨタの車は品質が信頼できるっていうので人気なんですけどねぇ。 QCの為に過労死だなんて、おかしいですよ。 また2-3月のうちにトヨタを買うつもりだったので複雑な心境です。 直接会社のポリシーを支持している訳ではないけれど、その商品を買うということで間接的にサポートしてしまう。 キャピタリズム中心の社会はこんがらがった糸の様。
投稿: 伸 | 2008年9月19日 (金) 06時25分
ひどい話ですね…
知人が関連会社の豊田自動織機とゆう会社で働いていて
ラインの爆発事故で今年の五月に亡くなりました。
その事故についての会社側からの発表は生産ラインには問題ありませんとの非常な言葉でした。
全力で事故の原因を追求するとの事でしたが
やはり闇に葬られてしまいました。
投稿: 愛子 | 2008年10月 9日 (木) 00時34分
トヨタは国産車としては最高です。が、している事は最低ですね。企業は常にいつでも逃げ口を持って動いているとしか思えないくらい卑怯なところがあると思います。うちも主人がある有名な会社に勤めており同期入社でダントツな出世をし6年前には責任ある立場になりました。が、しかし健一さん程ではないですが、やはり休日出勤を強要されたり、足を引っ張り邪魔する輩がいて一時も仕事から目が離せなくなりました。
挙げ句には抵抗力がなくなりある難病になり命まで取られる寸前になり家族、親、親戚まで集まり大騒ぎになりました。会社では、もう何人の人が倒れ亡くなったか…。人を人とも思わないトヨタも主人の会社もそう…それでも人間なのかと腹が立ちます。
昨年車をトヨタに変えて購入しました。確かに製品自体は良いですが読んでしまった今は乗るたびに内容が頭をよぎってしまいます。ある意味断りきれない弱者である社員をまるで奴隷の様に働かせる会社、人事ではありません。
投稿: まりぃ | 2009年4月30日 (木) 09時58分