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2008年8月 7日 (木)

トヨタに夫を殺されて(2)

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 事故でも事件でもない、何の前触れもなく起こった夫の突然死。そんな状況をすぐに受け入れられる家族はいないだろう。そこに会社が追い打ちをかける。人事が退職金の書類持ってお通夜に訪れたのだ。
「退職金がどうのと言われたとき、正直、『誰が退職するの』と思いました。自分の中ではまだ夫が死んだかどうかも納得できない状況での退職金ですから。退職って何? 別に辞めるって言ってないけど、何で会社に残してくれないんだろう。そう思いましたね。
 このとき、死んだら従業員なんていらないだって実感したんです。悔しかったですね」
 会社側としては葬式費用などを心配して、素早く対処したつもりだったらしい。しかし突然死に直面した遺族への配慮が欠けていたと言われても仕方ないだろう。なにせお通夜の晩だったのだから。
 そのうえ労働組合が、さらなる追い打ちをかける。
「組合がお見舞いって、10万だったか20万円だったか手渡したんです。『お確かめ下さい』と言われて封筒からお札を出して数えて。自分は何やっているんだろうって思いましたね」
 結局、組合も会社も遺族の気持ちに寄り添えなかった。いや、むしろ寄り添う気持ちがなかったというべきか。両者が優先したのは、遺族の気持ちではなく仕事だったのだから。夫の死を金銭に換算したように遺族が感じても仕方がない。
 じつは、ここに健一さんを追いつめたトヨタという会社の本質が見え隠れする。何にも増して会社を優先するという論理。命よりも利益を大事にする企業意識である。

 健一さんの残業が増え始めたのは、過労死する2年近く前、2000年あたりからだったという。EX(エキスパート)と呼ばれる班長に昇進したことが契機となった。ただ、それでも当初は2時間程度の残業で帰ってきていたという。しかし亡くなった前年の6月あたりから、どんどん仕事が忙しくなってくる。2人の子どもの誕生日である6月12日に合わせて取った連休が、自分の都合で取れた最後の休みとなった。
「夫が疲れているなと感じたのは、亡くなる半年前ぐらいですかね。お盆休みのときも何日か仕事に出ていて、そのとき『頭が回らない』って。いろんなことをしなければならないのに、切り替えられないって意味だと思うんですけれどね。基本的にいつもニコニコしている人だったのに、笑顔が減ったなと感じました」
 健一さんの仕事は車のボディーの品質検査業務だった。品質検査と聞くと多くの人はできあがった製品のチェックを思い浮かべるかもしれない。コンベヤーで流れてくる商品から形の悪いものを取り除くような作業だ。しかしトヨタではさまざまな工程で品質完全チェックが行われる。
 健一さんの前工程はプレスの工程、後ろが塗装・組み立て工程となっていた。ここで不具合が見つかった時に、修理する段取りを整えるのが健一さんの仕事である。ただし生産ラインは常に動いており、各ラインの従業員の動きは秒単位で決められている。そのうえトヨタ生産方式は必要以上の在庫を持たない。つまりトヨタでは、ギリギリまで切りつめられた作業時間で、決められただけの製品を製造することが強く求められている。
 そうした状況の中、健一さんは後工程から不良品のクレームを受ける度に駆けつけ、関係する前や後の工程の担当者と話し合い、ただでさえ余裕のない生産ラインに不良品の修理を押し込むよう調整を続けてきた。当然、ギリギリの製作時間しか与えられていない各部署の担当者は健一さんを怒鳴りつける。しかも時に健一さんは、トヨタでは重大犯罪ともいえるラインの停止を決断しなければならなかった。
 もともと生産工程に物理的・時間的な余裕があれば、不良品の修理などそれほど大した問題にならない。外しておいて、あとで処理することもできるからだ。しかし生産工程の1秒のムダさえ削ってきたトヨタではイレギュラーな問題の解決がとても大変になる。それゆえ健一さんは、怒鳴られながら各部署を走り回らなければならなかった。

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