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2008年8月 8日 (金)

『吉原 泡の園』第73回/ソープ嬢

 性風俗の世界はソープからファッションヘルスなど多種多様である。20年以上前に流行ったノーパンシャブシャブに代わり、2006年現在、生着替えシャブシャブなるものまで出現している。出会い喫茶という新しいサービスも出現した。では業種によって女のコに違いがあるのだろうか?
 吉原のような高級店は、容姿、マナーなどの品格、エンターテインメント性を重視する向きがある。これに対峙するのが、ピンサロなどの比較的安い店で働くコだ。容姿、品格が劣ると言っているのではない。始めて風俗に足を踏み入れるコというのは、始めはピンサロのような所から入るのが一般的だと言いたいのだ。
 吉原ソープのようなところで勤めるには、ギリギリまで追い詰められた何かがあり、さらに場馴れしていることが重要なのだ。デパートガールをしていたコが、いきなりS店に体験入店してきて、1日で辞めたこともあった。「素人」だとまさにそうなるのだ。
 ソープに入店に踏み切る理由には、借金や男への貢金などがあるが、もうこの商売しかできない女であることも大きい。AVに出演していて、それをプレゼン材料として持ってくるコもいる。さらに好き者派のボーイがいるように、女のコでも好き者だから働いているコも多い。さらに即尺サービスがあるから度胸も必要だ。金のためにといえ、なかなか大変なサービスなのだから。立場としてはソープ譲に対して、こんな考えを抱いてはいけないのだろうが、客観的に“偉いな”と思っていた。
 吉原に来る客も色々な悩みや不安を抱き、女のコたちに癒されに来るのだろう。地元では世間体で苦しみ、学校では人間関係で苦しみ、あげくの果てには勉強勉強でわけのわからない問題を強制される。吉原という小さな“村”には、そうした悲鳴をあげながら、のたうちまわる男達が数多くやって来ていた。それを黙って癒してくれる彼女達は、客にとって一筋の希望なのかもしれない。もちろん、夢を打ち砕く高額な現金は介在するが、そんなことを忘れさせてくれる何かが吉原にはある。
 ボーイは入店して来てはすぐに辞めるパターンが多い。ソープ譲も同じだ。ただ、業界を上がるために辞めるコは非常に少ない。「嫌よ嫌よ」と言いながら、1度夜の世界で生きた者はなかなか夜の世界を抜け出せない。高給でもあるし、楽して儲けられる部分もある。また、どうしても他の仕事がしにくい人もいる。風俗譲はうつ病を中心に、精神的に病を抱えている者が少なくないからだ。
 S店にいたコで、見た目はなかなかの美人だが問題のあるDという女のコがいた。サービス内容を客を見て変えるのである。それも客が金を持っているかどうか、基準はそれだけ。見た目が悪くないので、ある一見の客にそのコを勧めてみた。
「じゃあこのコで」
 とすぐに決まった。
 そしてご案内。90分後、上がりを受けて待合室に通し、アンケート用紙に記入してもらう。サービスから戻ってくる客の顔はテカテカになっていた。緊張と興奮がまだ冷めぬといった風情だ。
 冷たい麦茶を一気に飲み干し、少し落ちついたところで
「どうでしたか、今日のコは」
 と質問すると、テカテカになっていた顔を強張らせ
「う~ん、あんまりかな」
 と表情を曇らせた。
 アンケート用紙には。
“即尺サービスはありましたか”
“キャミソールを着ていましたか”
“浴槽内でのサービスはありましたか”
 などなど相当な数の質問があり、最後に。
“本日の女のコを、100テン満点で表しますと、何点くらいですか”という質問事項がある。そのお客は、0点と書いてあった。
「え?、はい?」
 0点である。いくら僕が勉強ができなかったからといって、0点は取ったことがない。それなのにD子さんは見事0点をゲットされた。
 サーット血の気が引いた。やばい、怒られる。そう感じ、恐る恐る客の顔を見てみると、テカテカの顔からは殺気までは見られなかった。
「あの~、0点とはなぜにでしょうか」
 聞きたくはないが、これも仕事なので仕方なくたずねた。
「ああ、あのコ全然ダメ。サービス悪いし、嫌々話している感じだしね、ダメだよ」
 アンケートの最後に、ボーイが必ず聞かなければならないことがある。
「そうでしたか、それは……。それでですね、最後にお聞きしますが、またこのコに入ってみても良いと思いますか」
 0点と言われていたがたずねてみた。
「嫌だね」
 思ったとおりのご回答だ。
「ねえ、君だってあんなコじゃ嫌でしょう? 正直にさ、違うかな」
 逆に質問されてしまった。怒りに震えてもおかしくないものを、グッとこらえ、優しく話してくれるそのお客さんが、そのとき何だかおかしくなり、思わず真っ赤になって吹き出してしまった。
 本気で笑っている僕に、お客さんはさらに質問を重ねる。
「ねえ、違う?」
 真顔で聞いてきたとき、そのおかしさは絶頂に達した。
 こちらがごり押しして入ってもらったお客さんなのに、そんな良い人を騙してしまう。これまた吉原ボーイの宿命なのであった。

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コメント

イッセイ様こんばんは。これまで長年に渡り私は多くの姫と出会い、中には絶対に秘匿しておきたい辛い過去を私に打ち明けてくれた女性達がいました。ソープで働く子は貴殿がご指摘なさるように確かに精神的な病を抱えている方が非常に多い。ただ、これは彼女達の仕事がキツい故にトラウマに陥りやすいのもあるでしょうが、より根本的には彼女達が育った家庭環境にあると個人的には思う。両親の離婚や死亡、親からの酷い虐待を経験した子は驚くほど多い。さらには性犯罪の被害に遭ったことがある姫達ですね。貴殿は何回か前のブログで、姉弟揃って吉原で働いている人について書いておられましたね。その姫やボーイさんは典型的なケースです。他方、私の仕事で付き合いのある昼間の女性らはまったく逆です。何一つ不自由なく親に愛され甘やかされ、大学に行かせてもらい挙げ句の果てには父親の力やコネで就職。そんな人間が沢山います。そのくせ残業は嫌だ、給料が上がらないだなんだと不平不満のオンパレード。彼女らを見るにつけ、表向きは「そうだねぇ」と同意しながらも、心の底では「なんだこの甘ったれ馬鹿女が!」と叫んでいます。様々な事情をかかえ、吉原で辛い思いをしながらもたくましく生きている女性達がどれほどのものか見てこい!と言いたいです。

投稿: 援護団 | 2008年8月 9日 (土) 23時03分

↑そのとおりだね。

投稿: ごん | 2008年8月11日 (月) 10時57分

援護団さん、毎度です。いつも熱いコメントありがとうございます。
そうですね、愛って、大切ですよね。でも、愛を知らない人は、相手に愛を与えるすべが分からずに、孤独の連鎖からぬけられず、そんなコが多いです、風俗嬢は。でも、働いているのは偉いし、甘えてるコに教えてやりたいですね。ま、それでも風俗嬢は辛いです。この吉原泡の園は、ささやかな応援歌でもあるのです。

投稿: イッセイ | 2008年8月11日 (月) 18時41分

イッセイさんも援護団さんも素晴らしい。

援護団さんのコメントを読んで、昔大学で課題図書だった『AV女優』って本を思い出しました。

泡姫様も、個室内と言う限られた空間での女優なのでしょう。

その演技に客として素直にレスポンスする事こそが、泡姫様への最大の恩返しであるかと思います。

投稿: 風呂好き愛読者 | 2008年8月12日 (火) 05時50分

本当にそう思います!

投稿: | 2011年3月24日 (木) 11時47分

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