書店の風格/第16回 西荻窪界隈
西荻窪はオトナな街だ。
降り立って北口から出、一分ほどすれば静かな街並みが現れる。何が素晴らしいって、コンビニやらチェーン店やらの進出が垣間見られるにも関わらず、街特有の落ち着きを失っていないのが素晴らしい。いや、そんなに昔からこの土地のことを知っているわけではないが、昔からこのような佇まいだったのだろうな、と感じさせる。アンティークや古本を扱う店が転々と並び、婦人向けのブティック、小劇場、有機野菜専門の八百屋、天然素材のパン屋などが「普通に」そこにある。看板で華々しく宣伝文句を謳っていたり、昨今の流行に乗ってみましたという真新しさは感じられない。ただ地域の人々のために、ひっそりとそこにあるのだ。思わず万人が詩人になってしまう、そんなロマンスを持っている街だ。
こんなに素敵な街に降り立った8月7日。私だって詩人になりたいのは山々なのだが、何せ炎天下である。駅前で鼻血が出てしまい、格好悪い姿をひとしきり晒してから書店様へと赴いた。本日伺うのは、西荻のカルチャーを体現しているとも言われている、本好きからたいへんな寵愛を受けている書店様だ。弊社から出ているホームレス本を、新刊扱いでなくなったあとも再三ご注文くださっている。お礼参りとともに今後の出版のヒントを得たいと、駅から歩いて3分の書店に向かった。公道から少し奥まった所に入り口がある可愛らしいお店で、このような規模の書店様に何度も注文をいただいていたのかと思うと本当にありがたい。
中に入ると、まずは雑誌のコーナーがあった。アニメ雑誌が嬉しい豊富さで、必死に好みの雑誌を探す女の子がいるのが微笑ましい。そして奥が一般書コーナーなのだが、人文社会系がかなりの面積を占めており店主のこだわりがはっきりと見える。今のところ弊社の本は棚から消えているようだ。レジにいる眼鏡をかけたおじさまに、お忙しいとは思いつつ声をかけてみた。
お名刺を渡してから、「棚のご担当の方はいらっしゃいますか?」と聞いてみると、「今はいないな」とのこと。
「何時頃お戻りでしょうか?」
「一時くらいかなあ。」
時計は午後の三時を指している。
「い、一時ですか?」
「一時くらいだね。」
最初は無言の門前払いを食わされているのかな、と少々悲しかったが、本当のことらしい。信愛書店は午前12時半まで営業している夜型な人たちに親切なお店なのだが、棚担当者が戻るのは閉店後のことらしい。そもそも信愛書店は高円寺にある「高円寺文庫センター」の支店である。そういえば高円寺文庫センターに行った折も、「担当者は夜中にならないと来ない」と言われてしまったことを思い出す。
「担当者は昼間、高円寺にあるカフェにいます。夜になるとまた違うところに移動して、そこからこっちに帰ってくるので1時くらいにはなってしまうんですよ」
おじさまよりご丁寧な説明を受け、さらに「ここに連絡してみて下さい」と電話番号をいただいた。高円寺のブックショップカフェのことは噂程度に聞いていたが、3店舗をほぼ一人で見て回っているなんて…感心を通り越して感動した。書店の新しい形を模索して走り続けている店主を、ぜひ追いかけたい。
さすがにカフェで営業はまずいので、お電話でアポを取ることにした。めったに会えないお人だろうから、後悔のないようスッキリPRしないと! というわけで、こちらの回はもう一回続きます。次は邂逅編…になる予定です。(奥山)
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