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2008年7月24日 (木)

北京オリンピックの前に読む本

 北京オリンピックまで3週間余りとなった。中国に関連する報道を目にする機会も多くなったように感じる。大気や食べ物の汚染、テロ、経済発展、強権国家、ビジネスパートナー、反日運動、富裕層の生活。今の中国がさまざまな角度から切り取られ、日々、大量の映像や記事となって吐き出されている。
 ただ本当の中国がどんな国なのか、なかなかイメージが結ばない。中国自体が混沌としているうえに、報道も主張をともなっているものが少なくないからだ。

 で、今の本当の中国はどうなんだ、という疑問に『写真録 さらば中国』(八木澤高明 著 ミリオン出版)は答えてくれる。大量の写真に短めのルポが付いた本なのだが、これが異様なほどの迫力をもっている。
Photo  地方での不当な裁判や共産党幹部の横暴に怒った人たちが、北京の上級機関に訴えるために集まる「直訴村」。売血によってエイズが集団発生したエイズ村。キャラクターのぬいぐるみを生産するコピー工場。犬をさばく現場。纏足(てんそく)の女性。汚染された川とその水で病気に苦しむ人々。地方の農村から出てきた娼婦。都市で成功した富裕層たち。
 現在の中国の混沌が裸のまま投げ出され、こちらに迫ってくる。もちろん取材もラクではない。エイズ村では公安に軟禁されたうえに金を奪われ、あげくの果てに殴りつけられる。「直訴村」では公安におびえて帰りたがる通訳を怒鳴りつけて取材を続行する。コピー工場の取材ではコーディネーターから、「あなたは日本からのビジネスマンとして工場に行きます。もしカメラマンだとばれたら、どうなるか分かりません。非常に危険です」と言われている。それでも本には、きちんと写真が掲載されているのだ。

 しかも著者は余計なバイアスを事実にかぶせない。

 例えば生きた犬をさばく様子を取材した著者は、次のように書く。
「可愛い子犬を食べる人々を野蛮だという気持ちは毛頭ない。中国の犬食文化を素晴らしいと讃える気持ちもない。犬はペットだという認識の中で育った私は、心の中に何とも言えぬ違和感を感じながら、ただ懸命にシャッターを切ることしかできなかった。その違和感は何なのか。簡単に言ってしまえば、犬食文化を知る者と、知らぬ者程度の差異なのだろう」
 そして、この文章はこう続く。
「後日、犬を食べてみることにした」
 ヒステリックなあざけりも、現実感のない正論も現実に体ごとぶつかっていく取材者の前では、何の意味も持たないだろう。

 著者はあとがきで「今中国で起きていることは、かつて日本で起きていたこと、そして今起きていることと同じではないか」と書きつづっている。
 そうなのかもしれない。
 かつての日本の高度成長期の汚染と混乱、その一方にある活気。そして年々強くなる国家の横暴。カオス状態の現在の中国を写した写真に、いろんな年代の日本が映っていた。

 あーいい本だなー。
 出版不況だからこそ、こんな本を応援したくなる。(大畑)

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コメント

以前の苦情コメントは無視ですか?
自動巡回で迷惑かけられているのは事実です。どうにかしてください。
ヤフーブログランキングでもどんどん順位が下がってきています。
このままあいつのブログを放って置くとそちらの経営にも支障が出ると思うのですが・・・

投稿: 匿名 | 2008年7月25日 (金) 09時21分

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