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2008年6月 9日 (月)

愛犬家連続殺人事件の現場を歩く

 判明しているだけで4人を殺害。骨から肉をそぎ落とし、骨はドラム缶で焼いて粉砕、肉は細切れに刻んで川に捨てるという方法で「ボディーを透明」にした関根元。彼の周りで謎の失踪を遂げた人数の多さと、死体を隠す方法の残忍さは世間に強い衝撃を与えた。
 しかし彼には特別な「物語」を持っていなかった。
 快楽のために殺したわけでもなければ、殺すほど差し迫った理由があったわけでもない。ただトラブル解決の一手段として殺しがあるだけ。法律に詳しい人が問題解決のために裁判を起こすようなものだ。

 関根元が元妻である風間博子とともに逮捕されたのは、1995年1月5日。容疑は廃棄物処理の会社員の死体遺棄だった。当時の朝日新聞は、彼の遺骨数十点が見つかり、その歯の治療跡が一致したと報じている。
 この事件の捜査は非常に難航したという。死体がないからだ。いくら関根と金銭トラブルを抱えていても、ただの行方不明者なら殺人ではない。家出人捜索願の出された10万人を超える行方不明者の1人に過ぎない。その捜査の壁を突き崩したのが、関根元が経営するペットショップ「アフリカケンネル」元役員の供述だった。彼は関根に脅され、解体場所として自宅の風呂場を提供し、遺体の運搬を手伝い、頼まれるままに死体をバラすための牛刀を研いだとされる。
「最初の脅し文句は、『お前もこうなりたいか』というものだった。さらに、『子どもは元気か』『元気が何より』と畳みかけてきた。話し口調は、普段と少しも変わらない」
 この元役員は事件の詳細を記した自著『愛犬家連続殺人』(角川書店)で、会社員の死体を前に繰り広げられた関根の脅迫をこう表現している。

 殺された理由はカネのトラブルだった。関根から大型犬のローデシアン・リッジバックの繁殖が儲かると誘われ、つがいで1100万円ものカネを先払いした。しかし値段に不信感を持った彼は、先に渡されたメス犬が逃げ出したとしてオス犬のキャンセルを申し出たのである。この「メス犬」が逃げ出したという話をウソと断定した関根は怒る。その結果が殺人だった。
 元役員が書いた本で、関根は彼を殺害した動機について次のように語っている。
「『嘘をついたからだ。この俺に嘘をついたら、あとはもう死ぬしかないんだ。お前はそんな馬鹿じゃないよな』奴はそう言って俺にニヤッと笑いかけた」
 関根元は商売が下手だったわけではない。むしろペット業界では成功者とみられていた。シベリアンハスキーを日本に最初に輸入したのも彼だし、バブル期には億単位のカネを稼いでいたともいわれる。彼の犬舎があった熊谷市万吉の住民は、羽振りがよかった様子も目にしている。
「すごいときは、この道にお客さんの車がズラッと並んだから、うん」
 ただ商売のやり方はお世辞にもキレイではなかった。
 審査員にカネを握らせドッグショーで自分の犬を優勝させる。そうした犬をチャンピオン犬だとして法外な値段で売りつけ、さらに繁殖の儲け話に誘い、子どもを買い取ると約束する。そして生まれた子どもに難癖を付けて格安で引き取り、それをまた法外な値段で売買する。
 当然のごとく客は怒るが、多少引き取り価格にいろを付けて相手が納得しないようならヤクザ登場だ。それでも相手が引き下がらないようだと、関根のいう「ボディーは透明」となる。
 この殺人から3ヵ月後の93年7月に行われた暴力団幹部とその住み込み運転手の殺害も、さらにその1ヵ月後に殺された行田市の主婦の事件も、発端はカネを巡るトラブルだった。暴力団幹部は関根の殺人をネタに脅迫して彼の土地を奪おうとしていた。行田市の主婦も多額のカネを関根にだまし取られていた。
 ただ暴力団幹部を除けば、関根元には危険を冒してまで殺す必要は感じられない。最初に殺された会社員と4番目に殺された主婦には、カネは返さないと突っぱねればよい。だが、彼は殺す。
「若い頃、どうすりゃ金が手に入るのか考えたもんだ。いくら考えても結論は一つしか出なかった。金を持っている奴から巻き上げて、そいつを消す。捕まんなきゃ、これが一番早い。だが、殺すのはいいとしても、問題は死体だ。これが悩みの種だった」(『愛犬家連続殺人』)
 関根が元役員に話した殺しの「哲学」である。つまり彼の殺しはビジネスの延長線にあったといえる。この本には「殺人を犯した翌日だというのに関根は商売のことが頭から離れないらしい」と書いてある。しかし、おそらく正確には、「商売のことが頭を離れない」のではなく「商売の一環として殺していた」のだ。
 事実、関根はやり方こそ悪辣だったが商売に熱心だった。犬舎近くに住む。老人も彼が頭を下げながらお客を迎える様子を鮮明に覚えていた。
「(関根は)よく(犬舎の)外に居てね。お客さんを見つけると、すぐに笑顔で頭下げてさ。車見つけてからお店に入るまで、3回は頭を下げてたんじゃないの。で、すぐコーヒー缶を差し出していたよ」
Img_6711  また儲かる工夫も忘れていない。近くの高速から読めるよう、ペットショップには「犬 猫 狼」と書かれた黄色の大きな看板を掲げていた。狼との雑種である狼犬を意識した看板かもしれないが、この不思議な看板に引き寄せられた客も少なくなかったという。実際、彼の犬舎近くにある大学の卒業生が、「オオカミが飼えるのかも気になるので」とネットの掲示板で問い合わせをしていた。もちろんすぐに、その看板が牧歌的なものではないと教えられることになったのだが。

Img_6700

 関根は豪胆な人物ではない。背中に彫ったライオンも痛くて色つけを断念したらしく筋堀。暴力団幹部に脅されるままに、かなりの額のお金も払ったという。逮捕されてからも、死刑を免れようと主犯を元妻になすりつけようとさえしている。ただ殺害して死体を消すことについては絶対の自信を持っていた。その自信が連続殺人を生む。
「最初は俺も怖かった。膝ががくがくして立ってさえいられなかったもんだが、要は慣れだ。何でもそうだが、一番大事なのは経験を積むことだ。最初、俺はグリスを使いながら死体を燃やしてみた。すると死体はよく燃えて、最後には白い粉になった。それでも問題は残った。臭いだ。臭いの元は肉だ。そこで、透明にする前に骨と肉をバラバラに切り離すことを思いついたんだ。単に思い付くだけじゃ駄目だ。骨を燃やすのにもコツがいる。どんなことでも、実際にやってみなけりゃコツが掴めねえ。まとめて入れちゃ駄目だ。それだと白い粉にならん。慌てず、のんびり、確実に、一本ずつやるんだよ」(『愛犬家連続殺人』)
 殺人の方法だから不気味だが、これが普通のビジネスならNHKの『プロジェクトX』に取り上げてもいいような「創意工夫」である。
 じつは犬舎の近隣住民も、逮捕前の関根を怖いとは感じていなかったようなのだ。半袖のシャツか見え隠れする入れ墨もあり、親しい近所付き合いをしていた人はほとんどいなかったが、誰の口からも「腰が低かった」という感想はあっても、「怖かった」という話は出てこない。
 今も残るアフリカケンネルの廃墟近くで草刈りをしていた老婦人は、関根の思い出を次のように語った。
「一度ね、麦を刈ってワラを燃やしたら、犬が煙がるからと文句言われたことがあったね。でも、そのあとジュース持ってきて『飲みませんか?』なんて声を掛けられたりしたからね」
 こうした印象があったからだろう。近隣住民は犬の散歩をしていた中高生の少女を娘だと勘違いしていた。実際には家庭に問題のある娘を何人も雇い入れ、彼の愛人にしていたのだが。
 

※ここから先の記事は…

『あの事件を追いかけて』(本体952円、アストラ刊)にてご確認ください。

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