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2008年6月 6日 (金)

『ぼくが世の中に学んだこと』(岩波現代文庫 鎌田慧)

32069064  文章はどうとでも伝えることができる。誰かを悪者にしようと思えば極悪非道に書けばいいし、中立的な立場を装いながら非難する方に誘導してもよい。逆の印象を与えるのもまたしかり。
 もちろん映像もウソをつくが、「偽装」の容易さは文章の方が上だろう。なら、書かれた「事実」をどうやって見極めるかといえば、論拠もさることながら重要なのは文章のそこほこに表れる手触りじゃなかろうか。

 鎌田慧さんの作品はごつごつとしていて、どこか優しい手触りがある。
 その手触りの原点が、この『ぼくが世の中に学んだこと』に描かれている。高校を出て上京し、工場や印刷会社で労働争議を体験。そこから大学に入り、劣悪な職場で働きながらルポルタージュを書き続けてきた鎌田さんの半生が書きつづられているからだ。

「集まっているひとはほとんど大学出のようにみえた。ほとんど岩波、凸版(印刷)等々の大会社の労組幹部だ。
 彼らは本当に必要で労組をつくったのか。(中略)他の労組を応援するのも、義務からであり、同情心からではないだろうか。知らぬ。明日になれば何か解るかもしれぬ。小企業で、個人会社で、少人数で団結しあって闘っているものこそ、真の労働者かもしれぬ」
 賃金が安く「コッペパンばかりの生活」だったという20歳のころの日記から本書に書き写されたものだ。食えないから仲間と連帯し、会社や社会と闘ってきた。そうした彼の経験が、照れながら手を差し出した実直な職人と握手したような手触りを生んだのだとわかった。

 以前、釜ヶ崎のホームレスを対象とした越冬炊き出しの取材をしてきた鎌田さんが、取材の写真を見せながら「ぼくはすぐになじむんだよ」とニコニコしながら話してくれたことがあった。そのとき正直すごいと感じた。私もホームレスの人たちをずいぶんと取材したが、久しぶりの取材だとどこかぎこちなくなってしまったからだ。
 きっと自分で壁を作ってしまうからだろう。
〈たまたま今の自分には仕事がある。けれど弱小出版の労働者なのだ。明日には自分だってホームレスかもしれない。彼らと何の違いもない〉
 そんな当然のことを置き去りにして、僕は彼らと向き合ってきた。きっと「労働者」としての根の張り方が弱いのだ。

 この本に描かれている無名の労働者のささやかな望みと、厳しい現実を前にした一人ひとりのドラマが涙を誘う。そして思う。社会の中枢にいる人々にはもちろん、会社の経営陣にさえ届かなかった彼らのつぶやきを背負い、ルポを書き続ける大変さを。
 睡眠薬を飲んで自殺した印刷会社の同僚の墓参りをした日の日記を、鎌田さんは本書に書き写している。
「――ばかだなあ、鈴木さん、死んだりなんかして。
 ――鎌田ぁ、おれはだめだったけど、おまえはたんばってなあ、しっかりなあ。
――ああ、がんばるさ、しっかりやるよ」
(大畑)

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コメント

だったら絶対、読んではいけないとおもうんです。この無料公開、ダメですね(私感ですけど、文章がヌメついているのではないでしょうか、或いは文が上滑りしている、もっといえば笑っている)。リスペクトは老後の愉しみにの大スルーで、ぼくは編集長さんの咆哮に感銘を受けました(エリック・ホッファー著「自伝―構想された真実」のパロディなんでしょうが)。案外感情に流されるひとで、部分部分はほんとにトんガっているのですが……(あくまでも文章の旨みって意味でです)。

投稿: 巻太郎 | 2008年6月 7日 (土) 02時11分

あ、これは純粋に応援歌ですけど……、文春筆頭に、一部で大畑さんのやろうとしてること、徹底的に(徹底というのは主に句読点を主軸にミニマム100回は自筆の原稿に書き写して、息づかいを覚えることです頭じゃなくって右腕が無意識のってゆー)とにかく刮目されてますからね。このところの一連、横井VS安藤なんじゃないかってヨあいつは誠実でいいんだよってゆー(僕は一面識もありゃしないのですが……)。念のため萎縮されないように、これは自身の自戒そのもので、大手プロの編集者(大概が黒子ですね……大手は大手で葛藤抱えまくりでそんなの弱小のほうが後世に残るに決まってるわけですから)、先輩風、いい? 笑ってる文章ってのは、結局ジコマンってことなんですよ、そんなの絶対に商品にはなりはしない、下手でも真摯さが必要です特にジャナリストはってハラワタが煮えくりかえるほどそうおもって止まないのです。

投稿: 巻太郎 | 2008年6月 7日 (土) 02時39分

あとフルネームはトラブルの元になるから書かないほうがスムースにってゆー、直覚でそんな気がしたのです。

投稿: 巻太郎 | 2008年6月 7日 (土) 02時41分

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175 名無しさん@明日があるさ New! 2008/04/26(土) 22:39:56 0プレイングマネージャーとかいわれて、部下もいないよ。仕事は管理職の仕事から担当の仕事まで全て自分ひとりでやっている。 大手電機メーカー勤務だけどね。 就職人気ランキングではなぜか上位にランクイン。 学生が実態を知ったらかわいそうに思う。... [続きを読む]

受信: 2008年6月10日 (火) 07時43分

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