書店の風格/第10回 旭屋書店イオン浦和美園店
気がつけば2回続けて旭屋書店なのだが、全く毛色が違うのでお許しいただきたい。イオン浦和美園店は、まさに理想のファミリー型インショップといえる。入るにつけ出るにつけ、いちいち感心してしまったのはこの書店が初めてだ。
まず立地だが、埼玉県最大級のショッピングセンター・イオン浦和美園の中にある。埼玉高速鉄道浦和美園駅から歩いて3分。駅のまわりは住宅地が広がっているわけではなく裏寂しい感じだが、ひたすらに「道路」がある。バイパス沿いに無理やり駅をドッキングさせたような不思議な空間だ。車が通るばかりで民家もない、そんなところになぜ駅がと思われるだろうが、実は埼玉スタジアムの最寄り駅なのである。地元・浦和レッズの試合などイベントがあるときにはかなりの混雑が想像される。つまり、駅からでも車でも楽々アクセスできると同時にイベント時の波及効果も期待できるショッピングセンターなのだ。なんておトクなんだ!
センター内3階に旭屋書店はある。インショップの強みで、出入り口は大きく2箇所。間口が広い、というよりもほとんど360度店内が外から覗ける。一つ目の入り口から入ると、左手に児童書が豊富に並べてある。右手には実用書。真向かいのフードコートから満腹になって出てくるファミリー層をおもてなしするにたいへん相応しい。児童書の奥には小学校受験のための棚、さらに奥には中学校、高校、大学参考書と子どもの成長に合わせた棚構成が美しい。そして店舗のほぼ真ん中にまで達すると専門書のコーナーとなり、お父さんたちがコンピューターや経済についての本をくまなく探そうとしても必ず満足してくれるであろうラインナップ。とにかく広いのだ。
そしてもうひとつの入り口から入ると、そこにはまずケータイ小説が。そして文芸書の新刊、コミック、話題書、文庫、新書と続く。お隣のHMVからやってくる中高生や若者が好みの本を探しやすいつくりになっている。お客様の身になって考えないと、こういった店舗作りはできない。なんと丁寧に心を尽くした配置だろう。
しかし感動している場合ではない。私は営業に来たのである。今回もご迷惑を承知で挨拶に伺うと、担当者の方を事務所脇で待つように指示があった。待ちながら本棚を見ていた。なんだか私の欲しかった本ばかりが目に付き、帰りに買って帰ろうかなと思う。『営業活動の実践マニュアル』、『「営業力」の基本が身につく本』…ん? そうか、目の前がビジネス本のしかも営業ジャンルの棚なのだ。ということは、ターゲットにされている?!
偶然だろうけれど、前回の書店営業の本といい、自分も書店にとっては取引先であると同時にひとりの消費者であるということをひしひしと感じた。そうだ、最近は本作りにばかり目が行ってしまって、「自分が消費者だったら買うかどうか」という目線を忘れがちになっていた。この感覚を大切にしていければ、「売れる本」を作れる日も近いかもしれない。(奥山)
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