書店の風格/第6回 川越にて、手作りPOPの書き手
埼玉県というと、景色としては「薄いなあ」という印象がある。どうして薄いと思うのか。白っぽい建物が多いからだ。大型のショッピングセンター、林立するアパートやマンション、工場。…決して田舎扱いしているわけではない。筆者の故郷は山形でも有名な豪雪地帯だし、新潟や千葉に居住した経験もある。営業という仕事柄、神奈川や茨城にも足を運ぶ。そんな中で埼玉といって思い浮かぶのが白っぽい風景である、その程度の話だ。
最初から話がそれた。このたびの舞台は川越駅。東武線とJR線が使えるおりこうさんだ。東武側には多数のグルメショップやレストランがうれしい「EQUIA川越」、JR側には「ルミネ川越」があり、間断なく「アトレ川越」が続くという立地だ。駅の敷地内を出ないで満足なお買い物ができてしまうと思いきや、地上に降り立ったとたんから続く商店街もただ者ではない。ルミネやアトレでは絶対に手に入らない値段で靴やバッグなど小物が売っていて、他にもこまごまと喫茶店や食べ物屋さんが充実している。
…などと言っている場合ではなく、書店様に行かなければならないのである。川越で書店様にご挨拶できるのはめったにないことで、ちょっと緊張していた。
が、その緊張が思わず解けてしまった瞬間があった。
左のようなPOPを見たのだ。
出版社提供のPOPではないな、と思った。表紙の画像を配したりDTPでコラージュを作ったりという処理が見られない。手作りであることは確かだが、手書き風のものを出版社が提供しているということはありうるし、チェーン店なら一店舗で書いたものを印刷して配るなんてこともありそうだ。
非礼を承知で触ってみた。と、縁取りの雪の部分に盛り上がりが。これは修正液や黒字に書くペンの盛り上がりだ。このお店で作ったオリジナルなPOPであろう。
そう考えてから店内をぐるりと見渡すと、ところどころに手書きと認められるPOPがかなりの数である。いろんな書店様を見てきたが、こんなに手書きのものが豊富に掲示されているのは珍しい。店内全体に華やかでしかも優しい雰囲気を醸し出している。しかも見事なレタリングで装飾されてある。上に紹介したPOPは逸品で、レタリングの見事さはもちろん、本のイメージに沿いつつ細かく流星のイメージでホワイトをちりばめたところがいい。控えめながらもメッセージ性が強く、ただ「新刊」であることと「タイトル」と「著者の名前」しが書いていないのに訴求性の高い仕上がりになっている。他社の本なのに思わずカメラに収める承諾を得てしまったゆえんだ。
POPでここまでやれる書き手がいれば、書店業界も安泰。
人材でほかの書店に差をつける。それが目に見える形で実現している好例。(奥山)
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コメント
いつも興味深く拝見しています。
今回の記事は好事例としての紹介ですので、書店名をお書きになってはいかがでしょうか。きっとこの記事で興味を持ってその書店に行く方がいると思います。
私は他県住民なので行くことはなさそうですが、近所の書店に行ったらPOPを観察して書店の熱意を感じようと思いました。
投稿: ami | 2008年5月26日 (月) 09時24分
amiさん、いつもご覧になっていただいているとのこと、まことにありがとうございます。
今回の書店様ですが、実はいつもなら公開するような資料としては写真を撮らせていただくことが出来ないお店なんです(出版社内部で参考資料として使うのなら良いのですが)。
あくまでお店や書き手のことを公開せず、POPの紹介として掲載します、とお約束して許可をいただいたのでした。
amiさんのご意見、書店様にとってもきっと嬉しいことだと思いますので、今度お伺いした際に伝えてみます。
コメント本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
投稿: 奥山 | 2008年5月26日 (月) 12時19分