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2008年5月30日 (金)

『吉原 泡の園』第64回/グランドオープン

 改装工事も終わり大看板も一新、新しくSと改名した店がいよいよグランドオープンを迎えることになった。
 新店長、主任2人、ボーイ4人体制でオープンに望む。
 元マネジャーKは、新装にともないボーイも一新したい気持ちがあったようだった。つまり一度綺麗に「悪い血」を抜き取りたかったらしい。しかし新主任として赴任した新店長の片腕Sさんが、僕を店に残してくれた。鬼マネジャーや鬼店長の待遇に文句も言わずに黙々と働く姿をかってくれたのだという。
 情報喫茶からお呼びがかかると、ボーイがお客を口説きに行く。僕などは失敗が多く、2割程度のもんだった。元鬼マネジャーは怒り狂うが、新主任Sさんは決して怒らない。
「うん、そんなもんだって、いいよ遊ちゃん」
 それがSさんだった。元マネジャーが降格したため店には2人の主任いたわけだが、当然Sさんの人気がダントツだった。元マネジャーには元R店のメンバーを育ててきたのは自分だ、というプライドがある。Sさんが我が物顔で元R店であるS店を仕切っているのが気に入らないらしかった。ただSさんは新店長の側近。むやみに切れるわけにもいかない。陰でこっそりとSさんの悪口を言うだけになったのだった。
「偉いね、遊ちゃんは、俺ならとっくに切れてるよ。それなのにそんなに辛抱して頑張ってね」
 Sさんからよく言われた褒言葉なのだが、僕は辛抱していたのではない。怖くて言い返せなかっただけだ。借金もあって、どこへも行けないし、ただ黙ってその時をやり過ごすしかなかった。
 人生、そんな時もある。

 グランドオープン初日、朝から花屋がたくさん出入りした。入り口からロビーを超え、廊下の奥までズラリと祝いの花が届いたのだ。店内には花の香りが充満した。
 姉妹店の社長たちも改装された店内を見学に来た。
 大理石模様の壁と廊下。高級店の名に恥じない改装。待合室など見違えるようだった。ブルーの2人掛けソファーが10個、それに合わせるようにテーブルが並べられる。テレビも超薄型プラズマテレビである。現在でもそれなりに高価品だが、2002年当時はもっと高かった。100万円近くしたと記憶している。ただし2階のトイレは残念ながらそのままで、汚いし狭い。すべてが改装できたわけでもなかったのだ。
 13時オープン。会長や新店長が呼んだ知人などが義理で大勢駆けつけてくれた。車の台数が多すぎて、とてもではないが店の駐車場に停めきれない。仕方なく吉原にあるコインパーキングを利用するのだが、いかんせん遠いので、その往復だけでかなり体力を失った。それでも次から次へと客が来る。ほとんど義理で来ているらしく、どうやら会長などから金が渡っていたようだ。客としてみればタダで風呂に入りに来ていることになる。ちょっとお高い6万5000円の風呂だが……。
 その日だけはもうなんでもありのすさまじさだった。間違えて接客中の部屋のドアを開けても仕方がないみたいな。30分から1時間お客が待たされるほど店が混みようで、ボーイは元マネジャーの下でろくな教育も受けておらず、たいがいは経験を積むまもなく辞めていったから、忙しくなるとテンパッテお話しにならない。結局、ボーイ暦が半年を越えている僕に仕事がまわってきてしまう。
「H、もうええ、おい遊児、3号室セット行け」
 お客が続く場合、浴槽内部と風呂場のタイルの水気を完全に拭き取り、湯気で曇った鏡も念入りに拭く。女のコも大忙しだ。先ほどのお客に体をベロンベロンに舐めマワさていて、体中、前の客の唾液臭なのだから。僕が片付けをやっている間に、女のコは
「ゴメン、シャワー使うね」
 そう言って体中を洗っている。シーツの取替え作業をやりながら、ふと女のコの方を見ると、風呂場でシャワーを浴び、アソコにもしっかりとシャワーをかけている。大股を開いてである。
「こんな姿見ると、もう女のコを好きになれないかもね」
 一瞬だけ見た僕に、女のコがそう言う。ドキッとしても、知らん顔をしてまた作業を進める。部屋のセットは最低5分でやらなければならない。あまりにも遅いと後でどやされる。セット完了後は2つのゴミ袋と飲み終えたグラス数個を抱え込み、階段を降りる。それからやっと新しい客の案内に入る。それの連続がグランドオープンというわけだ。
 クタクタになりながらも、どうにか満員御礼の客をさばいていく。
 1日が終わったときには、魂が抜けたようになってしまった。女のコの裸など見たくもねぇと、その時は思ったりもした。そのクタクタの代償に、その日は大入りがめっぽう貰えた。もう、こんな日は2度とないだろう。グランドオープン初日だけの、まるで夢のようなひとと気だった。(イッセイ遊児)

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投稿: | 2008年6月 8日 (日) 19時54分

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