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2008年5月 2日 (金)

『吉原 泡の園』第63回/マネジャーの降格

 店長が飛んでから、ますますR店の団結力は緩みガタガタの状態に陥った。そんな中、店内改装は着々と進み、グランドオープン間近となった。マネジャーがトップになって指揮していくなんていくらなんでも無理、と首脳陣はやっと分かってきて、急遽、姉妹店からグランドオープンに向けてスタッフが派遣された。
 Rグループ内最高値を誇るE店のスタッフ2人が助っ人として紹介された。1人はスラリとした体で笑顔を絶やさないさわやか系ボーイSさん。もう1人は会長の実の息子であり、将来はRグループの跡取りと目されるMさん。Mさんは僕よりも4、5歳は若かったと思う。ただ、色々苦労したらしく貫禄はある。僕を含めR店の古株連中もMさんの指示に従う事で一致した。
 そんな中、Kちゃんは。
「あのM、ただ口だけで粋がってるんじゃないの」
などと言っていたが、Mさんの支持に従うことに抵抗を示さなくなるまでそう時間はかからなかった。
 Kちゃんが理由もなく屈したわけではない。時間とともにMさんの人間的魅力に惹かれていったからだった。ミスばかりを責めるのではなく、良い部分を見つけ、認めてくれる。僕も次第にMさんが好きになっていった。
 マネジャーも会長の息子であるMさんには歯向かえず、Mさんのお気に入りのSさんにまで媚を売っていた。
 そんな助っ人組の2人だったが、グランドオープン後にはR店のスタッフとして正式に働く方針を会社が打ち出した。Mさんが新店長になるというのだ。これで毎日食費代2000円が確実にもらえることになった。義理風呂も大半は店が持ってくれることを承諾してくれた。
 さて、ここで問題が起きる。今まで大威張りしてきたマネジャーが、Sさんと同等の主任に降格され、R店に2人の主任が存在することになったのだ。ただ、M店長の側近であるSさんの方がボーイからの支持から高かった。Sさんはもともと陸上自衛隊あがりで、根性はある。それに加えてさわやかな笑顔が売りでもあった。そのうえ義理にも人情にも厚いのだから、マネジャーより人気あるのも当然だった。
 新店長Mさんは会長の息子であり、限度額無限のブラックカードと呼ばれる代物まで持っていた。しかもケチな金持ちではかった。毎晩仕事が終わると、飯代2,000円とは別に、僕とSさんだけにコンビニでカゴ一杯好きなものをジャンジャン買ってくれた。それでもここに辿り着くまでの貰えるべき食費やらボーナスを考えるとまだまだマイナスだったのだが、とにかく生活は一変した。
 また新店長は白塗りのベンツに乗っていた。Bクラスくらいのものだが、自分で仕事をしてきて貯めて買ったものだという。忙しいときなどには送迎車として使わせてもらい、運転する機会も少なくなかった。
 ベンツに飛び乗り、客の待つ場所に勢いよくかっ飛ばす。そんな様子を目に留めても、
「人にぶつかりそうになったら、よけて壁にぶつけろ」
 などと男らしいことをいうのだった。
 今までの幹部とは言葉も態度も180度違う。時々マネジャーが怒りを顕わにすると、それすらなだめるのである。
 そうやって生活もよくなり始めていくなか、R店の改装が終わり、店名も「S」へと変わった。一から出直すという意味も込め大看板は白になった。新しいシンボルマークは花の画。
 グランドオープンまで、もうわずかな日数を残すだけとなった。(イッセイ遊児)

※次回の『吉原 泡の園『』は5月30日になります

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