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2008年4月18日 (金)

ケータイ小説の新しい波と『どこかで』

2  2007年度、出版界を席巻したのはケータイ小説だった。日販が公表しているベストセラーランキングによれば、文芸部門のベストテンに5つものケータイ小説がランクインした(表参照……赤がケータイ小説)。じつは、これらのヒットにもっとも驚いたのは編集者だったと思う。

 2002年、ケータイ小説の先駆けともいえるYoshiの書いた『Deep Love』がスターツ出版より書籍化され、累計270万部ものヒットを記録する。それでも出版各社は、この本に冷たい視線を送っていた。主人公の心情を細かに把握できないほど早いストーリー展開、旧来の小説から考えると稚拙な文学表現、そして執拗な性描写。こうした批判は版を重ねても消えることはなかった。そのような業界の雰囲気は、05年出版の『天使がくれたもの』の大ヒットでも変わることはなかったように思う。
 少し過激な言い方をするなら、多くの業界関係者がケータイ小説を「書籍」と認めていなかったのだ。句読点が三点リーダーの代わりに使われたり、詩と同じように句点で文章を切って改行していくケータイ小説ならではの手法にも、出版関係者の多くがアレルギーを示した。編集者として培った「審美眼」が通用しない書籍など、とても認められないというのが正直なところだったと思う。しかし07年に続発したケータイ小説のメガヒットは、そうした問題を吹き飛ばすのに十分だった。

 その結果、08年に入ってからケータイ小説の出版点数は一気に増加。飽和状態となったケータイ市場は、かつてのようなメガヒットを生みにくい状況となっている。ならばケータイ小説のブームは終わりなのかというと、どうもそういうわけでもないらしい。市場が成熟したによる競争が、新たなケータイ小説を生みだしているからである。
 まず、バラエティーに富んだ内容が描かれるようになった。
 かつては恋愛小説が、恋の始まり→薬物などトラブル→失恋→恋復活→彼氏の死などの黄金パターンで描かれていたが、現在はホラー小説など恋愛以外の題材もかなり出版されている。また、男性の作家もちらほらと見かけるようになった。そして、ついには浮気された妻の家庭崩壊を描いた小説まで現れ、それなりの人気を誇っている。
 夫婦仲について描いた小説を女子高校生が競って買うわけもあるまい。コアな購買層が中高生の女子であるが、顧客の裾野が広がってきたことは間違いない。考えてみれば、発売当初の『Deep Love』に夢中になった世代は、20代となり、多くは社会人になっている。彼女たちが自分の年齢に合ったケータイ小説を求めても不思議はない。

 このように多様化しつつあるケータイ小説は、インターネット同様さまざまな層を取り込みながら、予想外の発展を遂げる可能性を持つ。実際、書籍動向に敏感な大手書籍グループ仕入れ担当者からは、「ケータイ小説で理解する哲学なんて本も、これから出版されるかもしれませんね」と話してくれた。2ちゃんねんなどで優しく哲学を解説するスレッドが立っているのをみれば、そうした可能性が低くないとも思う。

Photo_2  このような時期に小社も意欲的なケータイ小説を5月中旬に発売する。盛満侑斗さんが執筆する『どこかで 世界を変える様な優しい唄』(株式会社アストラ 定価1000円+税)だ。ヤフーのブログランキングで高い評価を受け続けてきた盛満さんの短編小説と詩のコラボレーション作品である。10編の短編小説、その1つひとつのストーリーにマッチする詩を並べている。

 17歳の現役高校生であると同時に、サンミュージックに所属するタレントの卵でもある彼の作品は、時に150件以上ものコメントが寄せられる。若い女性読者の心をつかんで離さない彼の作品の魅力にひたるのもいいし、若者の心象風景を探る本としても面白いと思う。
 ぜひご一読を。
 盛満君のブログ「世界を変える様な優しい唄 -どこかで-」は、コチラからどうぞ!

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コメント

俺のほうがもっと面白い小説を書けるぜ? こんなものよりずっとね。

投稿: 緑黒飛蝗 | 2008年6月15日 (日) 23時44分

緑黒飛蝗さん

「俺のほうがもっと面白い小説を書けるぜ」の返答が遅れました。とくに「僕の指から硝煙が」良かったです。まだお若いとしたら現代の背景を書き込まない風潮に背を向けた丹念な作りで新世代の予感がしました。この後の展望をお持ちでしょうか。あくまでも私見ですが思い切ってハードボイルド路線を取るか幻想小説(最近この分野が出版で弱いので)などいかがでしょう。お節介言いましてすいません
でも難しいですね。「僕の指から」の結びを「数年後、先生は病死した。脳腫瘍だった」みたいにすると今はやりの路線になってしまうし、かといってこのままだとコマーシャルベースではカタルシスを得にくい。どうしたもんでしょうか

投稿: 月刊「記録」編集長 | 2008年7月29日 (火) 03時19分

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