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2008年4月25日 (金)

東京駅・大宮駅コインロッカーバラバラ事件

1987年12月、東京駅八重洲口のコインロッカーから腕などの遺体が複数の袋詰めにされて見つかった。この事件は翌88年1月17日、埼玉県大宮駅のコインロッカーから胴体が見つかり、同じコインロッカーが遺棄現場だったことや両遺体が同一人物(男性)と断定されたことから一挙にヒートアップ。都県をまたいだ凶悪で特異な事件に当てはめられる「警察庁広域重要指定事件」になり得る「準指定」とされた。ちなみに直近の指定事件は87年9月の赤報隊事件だった。この事件は犯行声明で私のいた毎日新聞も(朝日と)同罪などとあったため支局そばにパトカーが常駐して警戒するなど異様な雰囲気が立ちこめていた。

「広域重要指定事件」は都道府県境をまたぐ場合に適用されるので凶悪犯罪がすべてそうなるわけではない。しかし広域で同一とおぼしき犯行がなされる以上、社会不安を招くという点で他の特捜本部事件よりもいっそうの警戒が必要である。それは報道側に立てば取りも直さず決して落としてはならない大ニュースをも意味する。

この事件で最も困難だったのはバラバラの場合に本人を特定する最も有効な部位である手首(指紋)と首が見つからなかった点である。したがってプロの犯罪ではないかと捜査当局も報道陣も当初から疑っていた。冷凍されていた痕跡も後に明らかとなってこの見方が強まる。プロの犯罪となれば誰の頭にも当然「暴力団関係者」のイメージがふくらむ。被害者が中年男性らしきもあって記者クラブでも最初のころは「きっとそうだろう」とうわさをしていた。
ところが日を追うにつれて捜査本部の調べで被害男性は「たくましくない」肉体だとわかる。別にその筋の人はたくましくなくてはならないという決まりはないし、被害者が「その筋」とは限らないから変ではないけれども暴力団同士の抗争の結果という推理は成り立ちにくくなってきた。またプロの手口としたら遺棄した場所が3日ほどで期限が切れる、つまり見つかってしまうコインロッカーというのが腑に落ちない。死後バラバラにされたのはほぼ確実で、見つかった死体から致命傷が見出せないのも困った。
非常に綿密で周到な遺棄方法だが遺棄した場所が間抜けというのはありうるのだろうか。結局のところ首や手首が見つからなければわからない点が多々あり、同時に事件の性質上どこかの駅コインロッカーで首も見つかるのではないかと憶測され、もしそうなったら大大ニュースである一方で発見されるまでは身元不明者の身体的特徴と照合するなど地道な作業にならざるを得ず、次第に捜査本部も情報ナイナイ会見が続くようになり事件は迷宮入りかとの心配が立ちこめてきた。

事件は予想外のところで解決をみる。1年以上たった89年10月、詐欺容疑で身柄を取られていた男性の押収物に被害者とおぼしき首が見つかり逮捕した広島県警などが捜査本部を設置し、首の切断面が東京・大宮の両遺体とほぼ一致するとわかるや殺人事件として捜査を開始した。広島・埼玉・東京へまたがる大事件かと沸き立ち、背後に日本一有名な広域暴力団の存在をうかがわせる傍証も出てきて「役者はそろった!」感が一時は立ちこめる。ところがその後の調べで被害男性は病死と断定された。加害者は詐欺師というお仕事がお仕事なので自らの店舗内で死去した被害男性の遺体処理に困っての犯行だったようである。

さて。事件としてはある意味で竜頭蛇尾だった東京駅・大宮駅コインロッカーバラバラ事件だが私には付随して起きたもう1つの死体遺棄事件が忘れられない。

大宮駅のコインロッカーで胴体が見つかった際、警察は当然のことながら捜査の一環として駅のロッカーすべてを調べた。つまり開けた。するとそこからほぼ白骨化した赤ん坊の遺体が見つかったのだ。この事件自体はすぐに解決する。遺体を預けていた母親が「大宮駅コインロッカーで胴体見つかる!」のニュースをテレビで知り、あわてて引き取りにきたところをお縄となったのだ。どうやら母親は産み落として失神、目覚めた後にまもなく男児が死亡していると知りロッカーへ隠した。
ただその詳報を知るに及んで驚くべき事実がわかる。最初にロッカーへ持ち込んでから発見まで実に約3年も経過していたのだ。前記のように駅のロッカーの使用期限は3日。つまり母親は約3年もの間2日か3日に1度ロッカーへ行ってお金を入れ続けていたとなる。その回数は単純計算しても360回は下らないはずだ。
何百回も我が子の遺体があるロッカーへコインを投じ続けた母親。時々ロッカーも変えていたというから人通りが少ない夜間などに訪れていたのだろう。そんな行動へ彼女を駆り立てたのは何だったのか。愛情?発覚への恐怖?習慣?どれとも言え、どれでもないような気がする。チャリンとかすかな音がすれば後3日、我が子の遺体はロッカーで眠る。その夜に母親は眠れたのだろうか。どんな心持ちでその音を聞いたのだろう。
そしてあの事件がなければ。つまり胴体の遺棄がなければ母親はその行為を続けていたに違いない。あれがなければもしかしたら今でも。となるとバラバラ事件は彼女を御用にした災厄といえる半面で救ったともいえる。それとも彼女にとってロッカー通い自体が救いだったのだろうか。それが救いであっていいのか。

胴体発見で大騒ぎしているなか県警記者クラブで先輩が「本当はこういうニュースこそ記者は追うべきだ」とぼそっともらした。その通りだと思った。(編集長)

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コメント

はじめまして。検索から来ました。

東京駅の事件、ちょうどその日の新聞を持っていて知っていました。今まではネットで調べても詳しいことがわからなかったのですが(詐欺グループが病死した仲間を解体したということくらい)、たまたまこちらのブログにたどり着きました。発見当日の新聞には、「犯人は女性」「男女のもつれか」などという推測が並んでいたので、まさかそのような経過を辿ったとは思いませんでした。

大宮のコインロッカー事件には驚かされました。そんな事件があったのですね…。

ところで、「準指定事件」って今は何号まで指定されていて、他には何があるんでしょうか?もしご存知でしたらお願いします。

投稿: けい | 2008年5月16日 (金) 01時28分

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受信: 2008年11月27日 (木) 03時39分

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