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2008年4月 5日 (土)

『吉原 泡の園』第62回/才能は「ほめ倒し」

 千葉県のナンバープレートをつけた4WD。僕が客引きをしていると、その車の主が一軒一軒客引きのボーイに女のコの写真を見せてもらっていた。
 写真の中に気に入ったコがいないらしく、段々とこちらに向かって車が進んで来る。秒殺されたボーイはガックリと肩を落としていた。もし、ここで店のコの写真を見せ、僕の話術で客をくどき落とす事ができたら、メーンストリートの客引きボーイから注目の的だ。
 こんなことで注目されたくないという思いと、マネジャーの手前、R店の面子は汚せないという妙なプレッシャーが交錯する。だが迷っている時間などなかった。後ろでマネジャーが怒鳴っていたのだから。

 心臓のドキドキが止まらないが、車はどんどん僕の方に向かってくる。
「お前、冷やかしかよ、さっさと決めちまえよ、もう」
 ブツブツ言っていたら、隣りの店のボーイも秒殺。車はゆっくりと僕の前に来て止まった。助手席のウインドウが開き、兄ちゃんが体と首を助手席側に伸ばしながら言ってくる。
「どんな感じよ」
 プーンと香水の甘い香りが鼻をつく。
「新人さんからかわいい系まで揃ってますよ」
 僕は得意げにそう言うと、背中側のベルトに差してあった女のコの写真を抜き取り、開いたウインドウから上半身を車の中に突っ込んで写真を見せた。その姿はフロントから丸見えで、マネジャーもときおり様子を覗っている。
 ただ上半身をウインドウに突っ込んでいるおかげで、話している様子までは見えない。とにかく、それとなく仕事をしている風を装う必要があった。アッサリ断られるのだけは避けなければならない。
「秒殺」では見栄えが悪すぎる。

 客が入るかなどハッキリ言ってどうでもよかった。ただ、お客を逃したときのマネジャーへのいい訳や「頑張りました」という体裁は必要だ。後ろに控えるマネジャーへの恐怖と、僕の「誇るべき?」才能が客をとらえた。

 そうハッタリだ!

 嘘は得意だ。もちろん害のないウソだが、ほめ倒しだけは昔から誰にも負けなかった。
「このコ、お客さんみたいな男性がタイプなんですよ。だからお客さんが入ってくれれば、絶対喜んで張り切りますよ。スペシャルサービスなんかがあるかもですよ」
 適当に嘘八百が口からほとばしる。しかもお客は下半身を膨らませた男なのだ。興味を持たせたいなら単純明快。彼らの性欲や妄想を膨らませてやればいい。
 客をタイプの女のコがサービスをしたくて店で待っている、と言いまくった。カネのためではなく、恋愛感情でサービスするのだという客の勝手な妄想を刺激する。絶対に女のコはお客を好きになる、と客をほめて、ほめて、ほめ倒した。
「そうかぃ。へへ。じゃあこのコに決めようかな」
「ありがとうございます。あ、お車はここにこのままで結構でございますよ」
 そう言った後、ニヤリと微笑んでしまった。やはり、売上げを上げたいという気持ちがあるのだろうか?
 店内で一部始終を見ていたボーイ達が、マネジャーに告げる。
「はい、一名様ご案内」
 僕がそう叫ぶと。店内は一気に活気づいた。それまで暇だったからなおさらだ。
 フロントで2万5千円を払っている客をよそに、僕は客の4WDに乗り、店の横にある駐車スペースに移動させた。この時、移動に少しでも時間をかけると、マネジャーから罵声を浴びせられるので車移動も命がけとなる。
 とにかく急ぐ。急ぐので車を擦る事故は後を絶たない。もちろん誰にも言わない。かつてピカピカのジャガーの助手席側ドアをコンクリートに擦った時は、さすがに生きた心地がしなかった。「怖い方」の車だった。あれがバレていたら、指を詰めて泣いて謝るしかなかっただろう。
 今考えてもゾッとする。

 移動が終わると、また客引きに戻る。
 しかし適当にほめ殺してぶち込んだ客はたいがい怒って早あがりしてくる。通常なら30分ほどで、カンカンになって1人階段を降りてくるのだ。これが10~20分で上がるなら、緊急の用事によるはや上がりなのだが……。
 千葉ナンバーのお客は
「おい、もう帰るから車用意しろ」
 と真っ赤な顔ですごい剣幕だった。
「どうなさいました、お客様」
 Tちゃんが白々しく尋ねる。
 もちろん理由は分かっている。ほめ殺しでぶち込まれた客の相手をした女のコは、吉原高級店6万5千円の価値などすっかり忘れ、驚くほどマイペースなのだ。サービスも服も脱がずに手コキのみ。もちろんキスすらなし。
 それはR店のボーイなら、みなが知っていることだ。

 待合室に通し、麦茶で熱くなった頭を冷やさせる。
「手コキだよ、服も脱がないし」
 ああでもない、こうでもないと客は不満をぶちまける。それでも金はびた一文返さない。
「お客様、お車のご用意が整いました」
 客がすごい勢いで店を出て、車に乗りこもうとする。客引きの僕は、最後ドアを閉めてあげるのだが、その時、客が聞いてきた。
「ねえ、ここ有名なR店だよね、高級店だよね、おかしいよ。この店」
「はあ」
 ごもっともな意見だが、それを認めてはお終いだ。僕はとぼけた。
「そうでしたか、またご来店のほどお待ち申しております」
 最後までとぼけにとぼけてそう言ってドアを閉めた。
 ウインドウが開き、客は震えながら言った。
「もうこねーよ」
 ブーンッと黒煙を撒き散らしながら4WDが小さくなっていく。「もうこねーよ」という彼の言葉が耳にいつまでも残った。

 そう、お客さん、あんたは正しい。
 だが、僕は苦笑いを浮かべて、また僕は客引きに専念するのだった。だって、僕はボーイなのだから(イッセイ遊児)

※『吉原 泡の園』は、いったん中断いたします。またイッセイ氏の原稿が溜まりしだい再開する予定です。

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コメント

早く再開して下さいよ。

R店の名前も晴れてエイプリルフールより復活しました。

投稿: yk | 2008年4月 6日 (日) 23時23分

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