冠婚葬祭ビジネスの視線/第12回 春の合同自然葬に行ってきた
前日の雷雨はどこへやら、空は快晴。海は凪いでいる。3月15日、横須賀の三笠公園に15組の遺族が集まった。ヨットサーファーが遠くに賑わうのが見えるこの観音崎岬で、今から「自然葬」-今回の場合、一般に言って海への散骨-が行われようとしている。
NPO法人「葬送の自由をすすめる会」が年4回実施する合同自然葬。今回、「春の合同自然葬」に取材参加し、ごくプライベートであるはずの葬送の現場に立ち会わせていただいた。
きっかけは葬儀関係ニュースの「春の合同自然葬日程決まる」という記事を見たことだった。自由な葬送の実際をこの目で見てみたいと思い「葬送の自由をすすめる会」に取材の希望を申し出たところ、合同葬は公開しているので取材は差し支えないがビジネスではないので理解頂きたい、と言われた。この連載の「冠婚葬祭ビジネスへの視線」というタイトルを気にかけられたようだった。この連載をご覧になって頂いている方ならお分かりになるだろうが、冠婚葬祭の実際や方法の情報にウェイトが重くおかれ、ビジネス色は薄い。じゃあタイトルと中身がマッチしていないのではという議論はさておき、やはりNPO法人がビジネスと勘違いされるようでは困ってしまう。安田睦彦会長のご厚意に甘え、取材前に会の趣旨も含めたお話を聞きに伺った。
「最近は、散骨やその他色んな葬送の方法を提案する会社が増えてきているようです。そうすると私たちの自然葬も価格の比較対象になりうる。すると安さがきわだつ。でも、元々NPOですから、ボランティアでやっているので、私たちの会が一番安価なのは当然なんですよ」
なるほどビジネスとして墓地に葬る以外の方法を提案している法人が、確かに最近増加しているようだ。提供価格もさまざま。「葬送の自由をすすめる会」は1991年の設立から18年間、ボランティア活動を続けてきた。その意義を素通りして価格の面だけで比較対象とされては、墓地埋葬以外の方法を模索する方々に伝えたいこともなかなか伝えられまい。
「私たちの葬送は、『自然葬』なんです。海、空、山に遺灰を還す、自然に還す、という考えから来ています」
安田会長は、穏やかに話してくださった。
さて合同自然葬当日、15組の遺族と会の関係者、そして私の総勢34名が遊覧船「シーフレンド」に乗り込み、予定の11時よりも少し早めに出航した。小一時間ほど経った頃に船は止まり、司会者の案内によって名前が次々と呼ばれ、船尾から葬いが行われた。
水溶性の紙に包まれた粉状の遺骨が、海にゆったりと沈んでゆく。そのあと、それぞれの遺族の手で色とりどりの花びらが撒かれる。花びらが悠然と海をたゆたう様子はたいへん美しかった。このような余韻が遺族の心の慰めにもなろうと、ハンカチを手にした婦人を見つめながら思った。
その後、二組の遺族が取材に応じて下さった。
年配のご婦人は、「故人の希望でしたから。『死んだら撒いて欲しい』ということで、どこに、どのように、といった指定は全くありませんでしたので、こちらは私が選んで、来ました」と、ほほえみながら話してくださった。
30代半ばほどのご兄妹は、このたびお父様を海に還された。お兄さんは、雲一つない青空を仰ぎ見ながら口を開いた。
「天気がよいのも幸運でしたが、非常に気持ちのいいものですね。親戚とのしがらみなんかが多いとこういう送り方も難しいんでしょうが、さいわいそういったものが少なく、スムーズにここまで来ることが出来ました。親父は北海道の出身でしたが、この観音崎岬を選んで、この合同葬で、と指定して逝きました」
清々しい笑顔が印象的だった。故人が自分自身の葬られ方を明確にし、きちんと身内に話していったからこそ、この迷いのない顔は得られたのだろう。
これで、「葬送の自由をすすめる会」が行った合同葬で自然に還られた人は、2268名になったという。(小松朗子)
NPO法人 葬送の自由をすすめる会
http://www.shizensou.net/index.html
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