毒入りギョーザ事件で本格化するフードデバイド
毒入りギョーザ事件により中国産の生鮮野菜の価格が下がり始めたと報じられた。『日経新聞』によれば、「流通量の約6割を占める中国産サヤエンドウの2月1日から5日の平均卸値は1キロ145円。前年同期より55%、1月下旬に比べても29%安い」というから、かなりの値下げ幅だ。この需要分が国内産へと流れるのだから当然、国内産の野菜は値上がりする。
この記事を読んで、日本におけるフード・デバイドは新たな領域に入ったと実感した。
わたしが「フード・デバイド」という言葉を知ったのは、船橋洋一氏のコラム「米国のスーパーサイズ症候群。フード・デバイドが新たな格差問題に」だった。『週刊朝日』(2006年6月23日号)に掲載された記事を、半年ほど遅れてネット上で読んだのである。
「フード・デバイド」とは「食物格差」とでも訳すべきもので、地域格差や貧富の差によって、食べ物はもちろん食生活が大きく違うことを示す。
当初、フード・デバイドで注目されたのは、米国での肥満の問題との絡みだった。前述の船橋洋一氏のコラムには、米国のロバート・ウッド・ジョンソン財団がまとめた「危機に瀕する国:米国の肥満症」という報告書から、次のような結論を抜き出している。
●シカゴでは、白人が住むノーウッド・パークでは子どもの23%が肥満症だが、黒人とヒスパニックの居住地区では58%から68%が肥満症。
●ニューオーリンズでは、低所得層と黒人層の居住区ではファストフード店がはるかに高い密集度を示している。
●低所得層の女性は高所得層の女性に比べて50%以上、肥満症になる確率が高い。
ファーストフード店が肥満の大きな原因となっているなか、低所得層の住む地域にファーストフード店が密集し、当然のように低所得層が高所得層より肥満の人が多くなっているというわけだ。肥満が生活習慣病を引き起こす要因になることを考えれば、低所得者と高所得者の疾病率や死亡率にも差が出てくることだろう。
今後、このような格差が日本でも起こってくるに違いない。ただし格差は肥満として表面化するのではない。何十年後かにいきなり疾病率という形で表れる。残留農薬が心配な野菜やBSEの感染が疑われる牛肉など、安価の代償として食物の危険を引き受ける可能性が高いのは低所得者層だ。特に都市部の低所得者が危ない。自分たちで作った野菜などが食べられる田舎なら、まだ安全性だ。
もちろん高い食材が必ずしも安全とは限らない。しかしお金を出せば、とりあえず安全な食物を選べる可能性は出てくる。
以前、有機無農薬の農家に取材したことがあったが、市価より高値になるのは仕方がないと感じた。というのも、どんなに手間をかけても、農薬をまくほどには生産を安定させられないからだ。虫が多い年もある。植物の病気が流行りやすい天候もある。それを経験と知恵で乗り切っていくのが農家の腕の見せ所とはいえ、やはり自然の前には屈せざるを得ない。そうしたロスを全体としてならし、少しずつ野菜の値段に転嫁していかなくては、農家も生活できなくなる。結果として少しずつ野菜の値段が上がる。逆に言えば、消費者の生活が本当にギリギリだと、無農薬の野菜は買えなくなってしまう。
一方、危険だと市場から判断された食材の値段はどんどん下がっていく。そして市場で腐ってしまうのかといえば、もちろんそんなことはない。どこかの誰かがホクホク顔で買っていくわけだ。以前、米国でも捨てるくず肉をメキシコ経由で外食チェーンが買った報じられたことがあったが、同様のことが国内の市場でも起こるに違いない。
結局、一番安全なのは食材を厳選した自炊。次は食材の値段をある程度落とした自炊。最悪なのは激安の外食ということだろう。わたしの日常生活は間違いなく最悪の部類。しかし自炊をできる環境にもなければ、カネもない。これぞ「格差」。数十年後にフード・デバイドの恐ろしさを知ることになるかもしれない。(大畑)
関連記事:「毒ギョーザ」にみるリスク管理
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コメント
話しは外れるけど、ちょっと違うと思う。おれはほぼ毎日自炊している。仕事の都合で弁当も2食作って行くこともある。その理由は外食する金がないからの一点。そうしなければならない環境になったということだけどね
投稿: | 2008年2月 8日 (金) 09時42分
自炊というか炊事に関して言うとすれば、「できる」か「できない」ではなく、「する」か「しない」かだと思います。
投稿: ぶんぶん | 2008年2月 8日 (金) 12時49分