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2008年2月 1日 (金)

『自殺したい人に寄り添って』

413cvpnndnl_aa240_  自殺と聞くと、東京オリンピック銅メダリスト・円谷幸吉選手の遺書を思い出す。それは「父上様、三日とろろ美味しゅうございました」で始まる。それから何度も「美味しゅうございました」と書き連ね、 「父上様、母上様、幸吉はもうすっかり疲れ切って走れません。なにとぞお許し下さい。気が休まる事もなく、御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません」で結ぶ。川端康成が「千万言も尽くせぬ哀切」と絶賛したことでも知られる。

 次期オリンピックでの活躍が期待されるなか椎間板ヘルニアを患い、まじめだっただけに自殺に追い込まれた27歳の青年が、死の間際に選んだ挨拶が「美味しゅうございました」だったことは確かに哀しい。自分を追い込んだ世間への呪詛でもなく、オリンピックのために婚約を破談させた自衛隊体育学校への恨みでもなく、親族一同への食事のお礼なのだ。せめて恨む気持ちがあれば、自殺などしなかったであろうと考えると、この「美味しゅうございました」は重い。

 自殺しようとする人をどうやって止めるのか。これはかなり難しい問題であろう。とはいえ98年以降、9年連続で自殺者が3万人を超えるような現状を放置してよいはずはない。人口が違うとはいえ、イラク戦争でさえイラク市民の推定死亡数は8万から8万8000人である。少なくとも実弾が飛び交うわけもない日本で、これだけの国民が寿命を終えることなく亡くなっているのは異常だ。

 三一書房から出版された『自殺したい人に寄り添って』(斉藤弘子 著)は、その書名の通り自殺志願者に寄り添い、自殺を食い止めようと活動している人々に取材した本である。自殺の名所・東尋坊でパトロールをつづけるボランティア、借金・経済苦で自殺しないよう経済再生の支援活動続ける人物、ネットで自殺予防に動く男性などなど。どの人も他人の生死と真剣に向き合っている。

 この本に登場する多くの人が語っていたのは、自殺を口にしてはいても自殺志願者も本心では死にたくない、ということだった。だからこそ死の間際で、こちらの世界に引き留める何かが重要になる。本書には、「『死にたい』の背後にある『つらい』という部分で共感し合うことができれば、他者の理解や承認を得られることから、メッセージの発信者にとって大きな救いとなる」と書かれていた。つまりギリギリで生きる力を取り戻すのは、人とのつながりだということだろう。

 しかし絶望の淵まで歩みを進めてしまった人に、つながりを思い出させるのは容易ではない。その文字通り生死を分ける寡黙で濃厚なコミュニケーションが、自殺を食い止めようとしている方々の人間的な深みを増大させているのかもしれない。私は取材対象者の魅力に引きずられるように、一気にページをめくった。
 派手ではないが、しっかりと心に残る本である。(大畑)

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コメント

人は一人では生きられないよね

投稿: | 2008年2月 1日 (金) 05時32分

生きるって、すごく大変だから。
自分が今何をしたいのか、どうしたいのか、
わからなくなる事も、多々あるはずです。
でもそれでいいんです。

何したらいいかわからないなら、
何かしたくなるまで待ってればいいんです。
どうしたらいいかわからないなら、
わかるまでじっとしてればいいんです。

死ぬ事よりつらい事はない。

投稿: | 2010年10月18日 (月) 00時20分

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