« 『吉原 泡の園』 第53回/泡の底の底へ | トップページ | ■月刊『記録』2月号発売! »

2008年2月 3日 (日)

冠婚葬祭ビジネスへの視線 第5回/公益社に見る葬祭業の複合性(後編)

 先回、「葬祭の副次的ビジネスにおいて一番有望なのはイベント業界への進出だろう」と書いた。花屋、花輪屋、石材業、食品(仕出)、運送(貸バス)と周辺分野は様々あるが、一番成功しやすいのはきっとイベント装飾、もしくはイベントコンサルタントだろう。
 あまり意識したことがある人はいないだろうけれど、葬儀はイベントである。宗教的要素が絡んだり決まりごとが多かったりと様々な縛りで隠されてはいるが、結婚式やコンサートや演劇やコミケとなんら変わりない、イベントの一種にすぎない。とくに「冠婚葬祭事業」と一からげに言われるように結婚式とは業務内容が接近していて、婚礼部・典礼部間の異動は、多くの互助会組織では日常茶飯事のことだろう。
 ちなみに婚礼(典礼)施行発生から本番までの流れは次のようになる。

婚礼(葬儀)日程決定→見積→招待(知らせ)→装飾・料理・引物決定→式場設営→司会打合せ→本番

 以上を婚礼担当者は半年掛りで段取りする。葬儀担当者は2日で全てを終わらせる。時間があるからこそ婚礼の仕事はより煩雑になってくるが、基本事項は同じ。
 2日で数百人規模のイベントの手配をすっかり終了させてしまうネットワークを持っている業界なんて、葬儀業界以外に考えられるだろうか? しかも失敗は基本的に許されていない。よって細かいところまで手抜かりはなし。まさに任せて安心だ。

 段取りが良くても、肝心の本番の中身はどうなのかという意見もあるだろう。葬儀とは違う、華やかな演出を迫られる場合が多々あると考えられるからだ。しかし、学生時代に舞台をやっていた私は、葬儀会場の設営に初めて携わったときに直感した。
 「僧侶のコンサート会場を準備しているのだ」と。
 僧侶にとっては楽器である仏具を用意し(木魚はリズムを担当しており、リンは音頭と各種合図に使われる)、マイクを据えて音量を調節する。スポットをあわせる。客や僧侶柩の動線を確保する。案内看板を出す。「あそこの住職は声がでかいからこのくらいの音で」「背が高い人だからもっとマイクを高く」、または「ああ、明日は声のいいあの住職のお経が久々に聴ける」などという会話が繰り広げられるのを見るにつけ、「ああ、ここはコンサート会場なのだな」と思っていた。

 さらに進行に関して言えば、例えばジャリズムのかなり前のコントに「葬式DJ」がある。葬儀の司会者がDJだったらという想定のもとで行われるコントで、喪主を「今日の僕のパートナーは…」と紹介したり、「それでは本日のスペシャルライブとまいりましょう、お坊さんで曲はもちろん、OKYO!」「さあ、いよいよみなさんお待ちかね、焼香ターイム!」と激しいが、そんなに間違ってない。というか、大体あってる。そのテンションを極力ローに徹すれば、DJはそのまま葬儀司会者になってしまう。実際、司会席には照明盤が併設されていて、大きい会場では10数本ものバーを巧みに動かしながら照明調節を行わなければな
らない。導師入堂時は花道だけを照らし、着席したら祭壇前を照らし、焼香の時間には客席の明りを全開にする、喪主挨拶時にはスポット…というように。さらに音響設備も司会席まわりにあるのが一般的だ。喪主挨拶のクライマックスに流す思い出の曲、弔電披露の際のBGM、客入れ客出しの音楽と、沢山ある音響効果を絶妙のタイミングで入れることを要求される。時にはマイクで進行しながら、お辞儀をしながら。まさにDJだ。
 以上のような段取りと会場設営を、葬祭ディレクターは死に物狂いで2日で終わらせ、しかも3日目には自ら司会者として進行にあたる場合が多く、それを月に平均8回は繰りかえす。
 このような熟練のイベント担当者が、他業界に果たしているだろうか。
 金を出してでもそのノウハウが欲しい、あるいはその人そのものが欲しいと言う広報担当者は、どの業界にもいそうだ。
 さらに葬儀ディレクターは一般的に寿命が短い。多忙すぎて辞めてしまうのである。しかしイベント担当者としての腕は大変もったいない。だったら葬儀以外のイベント部門を設けてそこに異動してもらえば、企業として人材を失うこともない上に個人の転職不安も解消されるのではないだろうか。
 というわけで葬祭業の更なるイベント業界進出を期待します。そして私を雇ってください。(小松朗子)

|

« 『吉原 泡の園』 第53回/泡の底の底へ | トップページ | ■月刊『記録』2月号発売! »

冠婚葬祭ビジネスへの視線」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 冠婚葬祭ビジネスへの視線 第5回/公益社に見る葬祭業の複合性(後編):

« 『吉原 泡の園』 第53回/泡の底の底へ | トップページ | ■月刊『記録』2月号発売! »